多岐にわたる社会資本整備を伴う琵琶湖総合開発のような事業の効果は、さまざまな分野で長い年月をかけて現れてくるものです。総合的に評価する手法も確立されていません。しかし、社会的変化、経済的変化、発現した現象などから、現時点でどの程度の効果があったかを考察することはできます。この事業の3本柱である治水・利水・水質保全、さらに自然環境保全と利用、それらを総括する総合評価についての考察を紹介します。

琵琶湖総合開発事業

琵琶湖総合開発事業の効果 治水 利水 水質保全 自然環境保全と利用 琵琶湖総合開発事業の総合評価

1.治水上の実績効果

1−1 治水の面からの評価

 滋賀県にとって長年の念願であった瀬田川浚渫による疎通能力の増大、湖岸堤建設による浸水防除、内水排除施設の建設による沿湖の湛水位・湛水時間の軽減、流入河川改修による氾濫・浸水の軽減および湿田の乾田化、ダム建設による洪水調節や流況安定といった治水事業による直接的効果、ならびに砂防、造林、治山といった治山事業による土石流の発生や流出抑制など、その事業の目的とする機能と複合した効果を発揮し、安全で安心できる暮らしとまちの形成に向けて大きな役割を果たした。
 琵琶湖総合開発事業による治水効果を、琵琶湖総合開発の着手前と完成後のほぼ同一の実績降雨による洪水でみると、床上・床下浸水および冠水面積ともに減少していることが明白にわかる。

類似洪水による治水効果比較表

比較項目 昭和47年7月洪水 平成7年5月洪水
降雨量 最大雨量
最大雨量観測地点
流域平均雨量
424mm
余呉町柳ヶ瀬
320mm/5日間
435mm
朽木村栃生
297mm/13日間
琵琶湖最高水位 +92cm +93cm
琵琶湖の水位上昇に伴う冠水面積 3,377ha 742ha
床上・床下浸水(全県) 755戸 7戸
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2.利水上の実績効果

2−1 全般的な利水上の評価

 滋賀県および下流府県にとって長年にわたる念願であった安定的な水供給が図られるようになった。
 平成6年の降水量は過去と比較すると、7月は1894年(明治27年)に観測開始以来、最も少雨であり、6〜8月の降水量を年超過確率で評価すると160年に1度発生する少雨に相当するものであった。それにもかかわらず、過去の渇水年に比べて取水制限の開始時期が1973年(昭和48年)渇水の時は-36cmであったものが、1994年(平成6年)渇水では-94cmとなっている。図を見ると琵琶湖総合開発事業によって取水制限を行った日は、水位で判断すると35日間も遅く始まっていることがわかる。
 また、取水制限期間は昭和48年は98日であったのが44日と50%以下も短くなっており、琵琶湖総合開発事業によって生活や産業等に及ぼす影響が大幅に改善され、関西圏においては大きな社会的混乱を招くことなく乗り切れた。

取水制限開始時比較図 (»グラフをクリックして頂くと拡大します)

取水制限開始時比較図

2−2 事業別利水効果

(1)水道事業に伴う効果

(a) 滋賀県
 琵琶湖総合開発着手前の昭和46年度末における滋賀県の上水道普及率は81.2%であり、全国平均値の82.7%を下回っていた。琵琶湖総合開発事業の推進によって、広域的かつ合理的な水道整備が行われ、平成6年度には98.6%に達し、全国47都道府県の第9位に位置するようになった。
 また、水道用水の水源は、琵琶湖水、河川水、伏流水、地下水、湧水などであるが、このうち琵琶湖水の割合は、昭和51年度に41%であったのが平成6年度には65%に増加している。逆に、地下水の割合は、昭和51年度に43%であったのが平成6年度には29%にまで低下している。

滋賀県年度別水源構成(上水)

滋賀県年度別水源構成(上水)

(b)下流府県
 平成4年3月に琵琶湖開発事業が完了し、下流淀川から取水している府県などに新規に40m3/secの水利権が付与され、安定取水が可能となった。
 下流地域の水道給水人口は、昭和48年を100とすれば昭和62年には約10%も増加している。それ以降は漸増傾向にあるが、平成7年国勢調査人口によると阪神地域の給水区域内人口は約1,119万人であり、人口増加が続くことによって、水需要量も増加するものと予想され、40m3/sの新規開発水量は、この水需要に対して安定的な給水を確保するものである。

下流地域の水道給水人口の推移

下流地域の水道給水人口の推移

(2)工業用水道事業に伴う効果

(a) 滋賀県
 工業用水道は、南部地区において1979年(昭和54年)より給水を開始したが、それまでは地下水依存の割合が高く60%を超していた。平成8年度には、地下水依存度はピーク時より9ポイント減少している。
 平成6年度の異常渇水時においても、安定的な給水が確保され、生産活動に支障を及ぼすような給水制限や断水といった事態には至らなかった。
(b) 下流府県
 1992年(平成4年)4月から琵琶湖総合開発による下流府県の各利水団体には、工業用水量として約 9.8m3/sが付与され、地下水から工業用水道へのさらなる転換や、回収率の限界による補給水量の増加などにも対応できるようになり、工業製品出荷額の増加に寄与するようになってきている。

工業用水量の推移

工業用水量の推移
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3.水質保全対策による実績効果

3−1 全般的な水質保全対策面からの評価

 琵琶湖の水質保全は、下水道・し尿処理整備率の向上、さらに畜産環境整備施設・農業集落排水処理施設・ごみ処理施設といった水質保全事業の推進によって、汚濁負荷量が大きく軽減され、流入河川の水質、特に南湖に流入する河川の水質改善が顕著に見られた。
 特に下水の高度処理によって、全窒素、全リンに対する流入負荷の相当量を削減することができた。なかでも、南湖の流入河川の水質改善の効果が顕著である。
 しかし、琵琶湖の水質は、項目等によって改善されているものと悪化しているものとがあり、今後一層の水質保全対策事業の推進が必要である。

地域別河川水質の経年変化  (グラフをクリックして頂くと拡大します)

取水制限開始時比較図 T-P(全リン) T-N(全窒素)BOD

3−2水質保全対策に伴う各事業別の評価

(1) 下水道事業に伴う効果

 琵琶湖総合開発事業着手時の下水道普及率は 2.6%であったが、平成7年度では43%まで進み、とりわけ最近10年程の普及率の伸びはめざましく、年平均で 3.0%と全国平均の 1.8%を大きく上回っている。
 下水道事業の効果を県全体でみると、県人口や県民総生産の増加、県民の生活様式の変化によって、琵琶湖への汚濁負荷量が増大しているが、下水道事業の取り組みにより、水質の極端な悪化を防ぐことができ、また併せて県民の生活環境の改善にも大いに寄与した。

下水道普及率の推移

下水道普及率の推移

(2) し尿処理事業に伴う効果

 し尿処理は、下水道や浄化槽等の整備と合わせて、11地区のし尿処理施設の整備が進んだことによる相乗効果で、自家処理の割合は半減に近く減少しており、それにより水質の保全と生活環境の改善に寄与した。

(3) 畜産環境整備施設事業に伴う効果

 家畜の飼養規模に見合った20棟、140セットの施設整備を行い、家畜ふん尿を適切に処理し、農地への還元利用を行うことにより、畜産系のT-N、T-P負荷量ともに減少し、琵琶湖への負荷の軽減が図れ、また苦情発生件数も減少しており、環境に調和した健全で持続的な畜産の経営に資することができた。

(4) 農業集落排水処理施設事業に伴う効果

 農村社会における兼業化・混在化に伴う生活様式の近代化や多様化により、農村の水環境の悪化が進みつつある中で 102地区119箇所の農業集落排水処理施設が整備されたことにより、公共用水域に対する汚濁負荷削減にも効果がみられ、琵琶湖の水質保全に役立つとともに、農業集落の生活環境が改善された。

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4.自然環境保全・利用の事業実施による効果

4−1 全般的な自然環境保全・利用の評価

 滋賀県全体の観光入込客数は、平成3年まで増加傾向にあり、それ以降横ばい状態を保っている。また、市町村別の観光客増減数をみると、湖辺部に位置する市町村では増加しているが、その大きな要因は、琵琶湖総合開発事業によって整備された都市公園、自然公園施設、ならびに道路整備などが大きく貢献しているものと考えられる。

4−2 自然環境保全・利用の各事業別の評価

(1) 都市公園整備に伴う効果

 平成7年度までに琵琶湖総合開発事業で整備された都市公園面積は、滋賀県全体の都市公園面積の25%を占めており、琵琶湖総合開発前の1971年(昭和46年)度からみた増加分では31%と大きく増加している。このように、地域住民の憩いの場の拡大に寄与した。

(2) 自然公園施設整備に伴う効果

 自然公園施設の整備は、都市公園(湖岸緑地)の整備とあいまって、湖辺にすばらしい景観を形成し、レクリエーションの場としての湖辺環境の向上に寄与している。そのことによって、湖辺レクリエーション利用者が大幅に増加している。
  また、文化観光施設の琵琶湖博物館は、湖と人との関係を過去に遡って研究・調査し、それらの資料を収集・展示したものであるが、それにより湖と人間の今後のあり方を探る場であるとともに、多くの人々の幅広い交流の場となっている。

(3) 自然保護地域公有化に伴う効果

 水生植物生育地、湖辺天然林地および湖辺重要景観地の公有化による保全を行ったことにより、県内の優れた自然環境と風致景観が保全された。
 また、湖辺天然林地および湖辺重要景観地として奥琵琶湖を中心に6箇所の公有化を進めたことにより、奥琵琶湖の持つ優れた山並みと森林、そして湖水が織りなす沈影景観が維持され、併せて公有化されたことにより、無秩序な開発が阻止された。

(4) 道路事業に伴う効果

 道路事業としては、国が管理する国道8号、国道161号、県市町村が事業主体である道路改良を進め、地域住民の生活道路として利便性向上、安全で快適な生活圏形成に大きく貢献するとともに、湖岸道路と広域幹線道路とを結ぶことによって、琵琶湖へのアクセスも容易となり、琵琶湖畔にあるキャンプ場や水泳場、自然公園等ともネットワークされ、レクリエーションや観光に大きく寄与している。

(5) 港湾事業に伴う効果

 地方港湾の整備により、観光やレジャー利用などの利便性が高まり、利用客の増加に寄与している。また、大津港においては、防波堤および係留施設の完成により航行の安全性が確保でき、あわせて隣接地のなぎさ公園が開設され、観光客のみでなく地域住民の憩いの場として、都市の貴重なオープンスペースを確保でき、多くの人々で賑わうようになった。

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5.琵琶湖総合開発事業の総合評価

(1) 滋賀県

 琵琶湖総合開発事業の3本柱別の評価とは別に、滋賀県に及ぼした影響をみてみると、次のようなことがいえる。
 昭和47年と平成4年の県内総生産を比較してみると、全国平均では105%の増加に対して滋賀県では145%の伸びを示し、40ポイント上回っており、滋賀県が琵琶湖総合開発事業期間に全国より早い速度で豊かになったことがうかがえる。また、一人当たり県内総生産でも全国の伸びが75%に対して、滋賀県の伸びが81%と6ポイント上回っており、全国でも上位に位置している。
 工業の製造品出荷額は、昭和47年から順調に増加し、平成3年以降はバブル崩壊もあり減少している。しかし、昭和47年と平成5年を比較すると全国平均では155%に対して、滋賀県では350%と大きい伸びを示している。

(2) 近畿圏

 琵琶湖総合開発事業の進捗により、平成4年には琵琶湖周辺及び淀川の洪水被害の軽減とともに、淀川下流への毎秒40m3の新たな都市用水と滋賀県内の都市用水及び農業用水の安定供給が可能となり、近畿圏を支える水源として様々な用途に利用され、近畿圏の社会・経済のポテンシャルを飛躍的に高めている。
 さらにこの事業は、関係する地方公共団体等が利害関係を乗り越えて相互理解に基づいて、「近畿は1つ」という共通理念のもとに実施しており、地域連携の代表的な事業となっている。

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 『琵琶湖総合開発事業25年のあゆみ』(琵琶湖総合開発協議会 発行・編集)/平成9年8月 発行より抜粋


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