九頭竜川流域誌


3. 植物
3.1 植物環境

 南北に長い日本列島に生育する植物は、西南日本を中心とする暖かい地域に生育するものと、より寒冷な東北日本を中心に分布するものとに分けることができる。すなわち、日本列島の植物気候帯は、通常、亜熱帯・暖帯・温帯・亜寒帯に分けられる。九頭竜川流域の最高峰は標高2,128mの三ノ峰であり、植物気候帯としては暖帯から亜寒帯までがあてはまる。暖帯(ヤブツバキクラス域)と考えられるのは、ほぼ標高が200〜400mまで、温帯(ブナクラス域)は500〜1,400m、亜寒帯はおよそ1,300〜1,400mである。したがって、九頭竜川流域の平野部、丘陵地や山麓は暖帯に属し、越前中央山地・丹生山地・南条山地の山頂付近および県境の山地の大部分は温帯、県境の山地の一部の山頂は亜寒帯に属する。特に、三ノ峰以西には高山がないため、三ノ峰がハイマツなど日本海側高山植物類が生育する南西の限界となり、多くの高山植物がここで限られている。
 九頭竜川流域における自然植生は、中部山岳地帯、特に白山山系の西端部に位置し、しかも標高1,000〜1,500mまでの急峻な山地斜面から平坦な平野部、そして海岸部へと地形変化が著しく、その上、冬期には積雪が多い気候によって、顕著な特色を持つとともに、日本海地域における自然植生の北限と南限の境界地域を形成している。
 九頭竜川流域の植生のなかで、西南日本要素を主とする暖地性植物で当地域を北限または北東限とする種類がかなり多く、ハスノハイチゴ(大野郡和泉村田茂谷、標高860m付近、北限)、マルバノキ(大野郡和泉村田茂谷、標高780m付近、北限)、シマイヌワラビ(今立郡池田町冠山、標高1100m付近、北東限)、テツホンダ(坂井郡芦原町舟津、標高250m付近、北限)、クロソヨゴ(坂井郡丸岡町競山、標高850m付近、北限)、ワカサハマギク(福井市、標高8m付近、北東限)、スズシロソウ(福井市大丹生町、標高60m付近、北東限)、ミカエリソウ(福井市深谷町、標高80m付近、北限)、クロツバラ(福井市越知山、標高480m付近、北限)、ベニドウダン(武生市鬼ヶ岳、標高200m付近、北東限)、ワカナシダ(武生市三ツ俣町、標高100m付近、北限)などの生育がみられ、なかには日本列島の植物区系にとって極めて重要な種類も含まれている。
 一方、福井県を南西限あるいは西限とする白山山系を主体とした温帯性あるいは亜寒帯性の種類も多い。特に、オクノフウリンウメモドキ(勝山市取立山、標高1240m付近、南西限)、タケシマラン(勝山市取立山、標高1240m付近、南西限)、アオモリトドマツ(勝山市鉢伏山、標高1440m付近、西限)、イワイチョウ(勝山市大長山、標高1600m付近、西限)、ゴヨウイチゴ(勝山市大長山、標高1620m付近、西限)、アオジクスノキ(勝山市大長山、標高550m付近、西限)、ハガクレスゲ(勝山市大長山、標高1600m付近、西限)、オオメシダ(勝山市小原峠、標高1280m付近、西限)、ハクサンスゲ(大野市経ヶ岳、標高1360m付近、西限)など40種近くのものが重要な種類として挙げられる。
 さらに、九頭竜川流域には日本海要素と呼ばれる日本海側に固有な分布域をもつ種類がある。それらは、ヒメアオキ、エゾユズリハ、スミレサイシン、ユキツバキ、ハイイヌガヤ、トキワイカリソウ、マルバマンサク、オオバクロモジ、チシマザサ、ヤネフキザサ、ヒメモチ、キンキマメサクラ、サイゴクミツバツツジ、クニウツギ、チャボカヤなどで代表される。これらの種の多くはブナ林を中心に生育しているが、一部はシイ−タブ林、カシ林から二次林まで分布を拡大している。
 環境庁の報告によれば、ササ群落、ブナ群落、ハンノキ群落、ミズナラ群落、アカシデ−イヌシデ群落、ササ群落(二次植生)、ススキ群落、伐採跡地群落、スダジイ−タブ群落、コナラ群落、アカマツ群落、クロマツ群落、スギ−ヒノキ群落、アカマツ植林、竹林などに分類されている。これらの群落のなかで重要と考えられるものは、スダジイ−タブ群落、ウラジロガシ群落、ブナ群落、アカマツ群落である。
 九頭竜川流域の現存植生を図1.2.21に示す。

図1.2.21 九頭竜川流域の既存植生図


九頭竜川流域誌メニューへ
第2章メニューへ
戻る次へ
TOPに戻る

Copyright (c) 国土交通省近畿地方整備局 福井工事事務所 2001 All Rights Reserved.