第15回懇談会 (発表-3)地球環境問題から見た「森と水の経済学」

地球環境問題から見た「森と水の経済学」
兵庫大学経済情報学部教授 牛木素吉郎氏

本日の発表では様々なことを考えるときに生態系全体というか、地球全体を考えて物事を決めようではないかということを話したいと思います。

諸悪の根源は石油に

生態系全部に権利があり人間だけに権利があるのではありません。しかし人間だけに権利があると考えると、有利なところと不利なところが生じます。その諸悪の根源は石油にあるというのが私の説です。

価格の比較
  • 石油の価格の中には、探して、掘って、運んで、精製し、売るための経費は含まれていますが、石油をもう一度作るための費用が含まれていません。一方、お米の価格には再生産する費用が含まれています。また材木を再生産するための費用が含まれていなければ木を育てることができません。
  • 世界的な供給に対し、石油がよく売れるよう特定のグループが石油価格をコントロールしながら適当に値段を定められています。そのため、森林を管理している方々が木材を安く提供する努力をしても到底かないません。つまり、石油が安過ぎることに大きな問題があると思ったのです。
化石燃料と森林問題
  • 石油や石炭を化石燃料といいます。石油はあと50年、石炭はあと300年もつとされています。そのため木材より価格の低い化石燃料の需要が高い間は、森林問題は解決しないのではないでしょうか。
化石燃料から罰金をとる
  • 炭素税、環境税として石油や石炭に特別の税金を掛けて値段を高くし石油や石炭を使いにくくして、森林のように再生産できる資源を見直すということが1つの解決法として挙げられます。
  • しかし炭素税、環境税を実施している国が石油や石炭を使って物をつくって輸出しても、石油を湯水の如く使っている国の製品とは価格の上で太刀打ちできません。したがって1つの国だけが環境税を実施しても良い効果を得ることにはなりません。

財源の考え方

森林管理のための財源として3つの考え方があるのでは、と思います。

流域単位で
  • 加美町の森林がきれいにした水を加古川市民が飲んでいるのですから、流域で考えなければなりません。
  • 加古川という1つの流域を1つの生態系の単位であると考え、またその中で賄えるような財源の仕組みが必要ですから、人が多く集まっている下流域から徴収した税金は上流でも使うようにします。
  • 税金を徴収する手段の1つとして、水を使っているのですから、水源のために水道料金に上乗せするような形で水源税を徴収し、それを上流のために使うという方法が考えられます。
国単位で
  • 森林問題、エネルギー問題は国全体の問題です。
  • 国全体で徴収した税金の中から森林保護のために相当のお金を交付することにすれば良く、森林交付税という運動が現在盛んに行われています。
地球規模で
  • エネルギー問題への取り組みは一国だけが行っても損をするという仕組みになりますから、炭素税、環境税も地球全体で考えなくてはなりません。つまりマーケットでエネルギー問題を解決するためには地球全体で考えなければなりません。

森林を守る

森林を守るということも地域単位の仕事、国単位の仕事、世界単位の仕事となるだろうと思います。

災害予防のために
  • 砂防や治水は国土を守ることであり国全体の仕事になります。
用水確保のため
  • 一つの河川水を飲み水、農業用水、工業用水として利用することは地域を守ることであり県や市町村の仕事のなると思います。
資源確保のために
  • 資源確保のためにも森林を守らなければなりません。
  • 自然を守り生態系全体を守ることが人間のためにもなります。つまり自然資源を守らなければなりません。
  • 木材を多様に利用していくためには木材資源として森林を健全に経営できるようにしなければなりません。
  • 燃料としては現在、石油や石炭には到底かないませんが、石油がなくなったときに備えて木材を取っておく必要があります。

わたしの「とんでもない」意見

環境税を研究費に
  • 徴収した環境税は、木材をどのように利用していくか、プラスチック原料・ガス燃料・木材発電等の研究費に充てて貰いたいと思います。
木材を貯金する
  • 化石資源が枯渇したときに備えて、間伐材を運びやすい小さな粒状(パレット)に加工してストックします。そして石油・石炭がなくなった数百年後に使用できるように備えることを考えて貰いたいと思います。

質疑応答

Q 山と川とのつながりについて(玉岡委員)
本日のタイトル「森林(やま)は川の母親」が素晴らしいなと関心させて頂きました。本日の懇談会が加美町で開催された意義はここにあるのではないかと思います。次の世代に立派な森林資源、河川資源を残すという意味でも、山と川とのつながりをもう少し教えて頂きたいと思います。
A 山が水を抱え、そして川へと流します(戸田委員)

私はあまり川のことには触れなかったのですが、山と川と海という3つの連動の中での生態系や山と海の話をさせて頂きました。しかし山が水を抱え込んで貯め、それを川へ流すのですから、森林が川の母であることには違いがないと思います。

Q なぜ砂防が山を守るのか(玉岡委員)
なぜ砂防が山の荒廃を守ることになるのですか。要するに土が流れ出して山崩れがあって山がなくなるという説明をお願いしたいと思います。
A 荒れた山から砂の流出を防ぐための対策なのです(槌谷氏)

砂防というのは字のごとく砂を防ぐということです。山が荒廃すると雨が降る度に土砂が流れ出ます。流れ出た土砂はどんどん下流に堆積し、河床が上がり、一度大きな雨が降ると川は溢れ出して災害に繋がってしまうからです。

荒廃した木も生えていないような裸地に雨が降ると、土石流となって流れ出し土石流そのものでの人家等に対する被害が発生します。これを抑えるために、物理的に土石流の発生する危険性のある場所に、砂防ダムや土木構造物を造るという方法があります。

Q 堆砂した砂防ダムはそのままでいいの?(玉岡委員)
ダムは土がいっぱいになっても浚渫をしないという大前提で造られているそうですが、つくりっぱなしで次の世代に無駄な建造物を残していくことにならないという理由についての説明をお願いします。
A 河床の勾配が緩くなり、土石流の勢いを抑えます(槌谷氏)

砂防ダムは年月が経ちますと砂が流れ込んでいっぱいになるという状態ですが、渓流は非常に勾配が急であり、一度土石流が発生すると非常に膨大なエネルギーで下流へ流れ落ちます。しかし砂防ダムを造ると土が溜まって勾配が緩くなるという効果が生まれます。この状態で次の土石流が発生すると、勾配が緩いので全体的にこの上にさらに溜まるという状態になり、そこから溜まった土砂はその後の降雨等で下流に流れ、通常の安定した勾配に戻るという仕組みになっており、常時空にしておく必要はないと考えております。

コメント(原委員)

山の法面を安定させる役目もあります。

砂防ダムに溜まった土砂は、溜まったことによって勾配が緩くなり山の裾を押さえて安定させる役目もありますので、治山上の効果を発揮します。

砂防事業と言いましても、植林で木が成長することによって土砂の流出を抑えるという治山事業もありまして、それと砂防堰堤が一体となって山の安全を守っていきます。槌谷氏の発表は土木の見地からの治山事業の紹介ということでご理解頂きたいと思います。

流域保全費、川サミット etc...(横山委員)

  • 森林保全の財源は非常に重要な論点だと思います。横浜市では月25円が水道料金に流域保全費として上乗せされています。矢作川などの豊田市では水道1立方m/s当たり1円が水源の森を保全する料金として含まれています。豊田市の場合は年間5,000~6,000万円が捻出されています。
  • 「川サミットin加古川」が12月9日に開催されます。加古川下流部の漁業協同組合、内水部の漁業協同組合、加美町の森林組合等を繋ぎ、生業としながら流域間の保全や関係について考える分科会です。
  • この川サミットでも水源を保全するための水道料金負担の問題を1つの課題として話し合っていきたいと考えております。二酸化炭素の吸収、酸素の生産、水の供給という上流部の山間地域が持つ環境保全の役割を、費用負担という形で下流住民がどのように発想していくのか。これは非常に大事な論点ではないかと思っております。
  • 私の得ている情報では、来年おそらく環境税が成立すると思われます。
  • 現在、アメリカ、カナダ、イギリスでは二酸化炭素の排出権の市場が拡大し一般化しつつあります。炭素処理料金(アメリカでは1t当たりおよそ100ドル)が二酸化炭素の吸収能力に応じて森林に交付されるというもので、そうなると河川の整備、森林の環境整備でも財源ができてくるということことが考えられます。

本日のまとめ

座長

サケはなぜ卵を産みに川に上ってくるのかご存じですか。上ってくるサケの数に応じてクマが生きているそうです。要するにクマのエサになりに上ってきているのです。クマが出した糞が肥料になり、サケは海の栄養分を山に持ってきている。それによってクマが生きている。まさに海と山とが母なんですね。元来存在した山、川、海という生態系を我々が潰してしまっている。その基本をもう一度しっかり見直しましょうというのが本日の議論の1つかもしれません。

森林をしっかり整備して土石流が発生しないようにすれば、ガンガンのコンクリートの砂防ダムは必要ない。そのためにはしっかりと森林を整備しようよと。そうすることによって、もしかしたら自然の砂防ダムが自然にできるかもしれない。それが牛木委員ご指摘の新エネルギーに繋がってくると思います。

本日は非常に良い議論が行われたと思います。姫路工事事務所主催の加古川の議論で森の議論、砂防の議論、エネルギーの議論と総合的に考えた、まさに21世紀を先取りした話だと思います。さらに町の皆さん方に参画を頂き、住民の方々に完全にオープンにして行われました。今後もこのような統合的参加型で是非進めて頂きたいと思います。

事務局

活発なご議論、まことにありがとうございました。

事務局より最近の河川行政の動きについて2つほどご紹介します。

明治29年に近代河川管理制度が誕生した際には、河川管理には「治水」という観点しかなかったのですが、昭和39年、戦後の工業化の発展の中で河川の流水を工業用水や飲料水に使うようになり「利水」がプラスアルファされました。さらに平成9年、河川環境を保全していこうという考えが高まり、河川法の概念に「治水」「利水」に「環境の保全」という考えが加わり、バランスよく総合的に見て河川整備をしていきましょうというように変わってきました。

さらに、この3つの観点を総合的に加味した河川管理を行うにあたり、行政だけではなく有識者や地域の皆さまの意見を伺っていこうということで、揖保川の流域委員会をつくるための準備会議を昨日開催させて頂きました。加古川につきましても来年度あたりから流域委員会の設立に向けた動きを開始していきたいと考えております。

また「加古川流域研究所」というホームページ用につくったバーチャル研究所がございます。加古川を切り口にして流域の自然や町、歴史に関する調査研究結果をホームページに掲載し、それをみんなで共有して加古川流域を盛り上げていこうという趣旨で設立しました。