猪名川河川事務所

自然再生計画

猪名川における河川環境の課題

猪名川で取り組むべき自然環境の課題

猪名川における河川環境の課題は、第2章で整理した以下の5事項である。

自然再生計画の取り組み方針

猪名川が抱える全ての課題に取り組み、猪名川の河川環境を再生していくことが自然再生の最終目標であるが、各課題のおかれている状況が異なる等のため、実際の課題への対応は段階的に取り組むこととする。

猪名川の自然環境の課題解決にあたっては、河川管理者のみならず、農林関係者、上水・下水関係者、大阪府や兵庫県、沿川市町などの地方自治体、そして市民団体や、地域住民などとの調整や連携が必要となるものもある。従って、ただちに河川管理者が主体となって実施可能なものについて、重点施策と位置づけ「自然再生事業」として取り組む。

また、関係部局等との協議が今後とも引き続き必要な施策に関しては、関係機関や地域住民と調整を図りながら地域連携(パートナーシップ)を構築しながら取り組むこととする。具体には次のとおりである。


◆重点的に取り組む自然再生計画


1. 横断連続性の回復

河原環境や湿地環境などを含む水域と陸域の遷移区間である水陸移行帯は、近年急速に変化が進行中であり、このまま放置すると、一層の環境悪化~永久に喪失の懸念もあることから、早急な取り組みが必要である。

2. 河川縦断連続性の回復

縦断連続性の分断は、魚類等の遡上・降下への影響が懸念される。特に回遊性魚類の生活史を確保するために、早急な取り組みが必要である。


◆流域全体で継続的に取り組む自然計画


3. 河川流量の確保

水利用者などの関係者も多く、様々な視点から検証調整する必要があること、また、河川水の適正な利用や節水意識の高揚などの課題も併せて考えていきながら取り組んでいくことが必要である。

4. 水質の改善

河川の水質改善にはまず流域での発生源対策とその普及活動が必要である。また、ステークスホルダーが多いことから、関係部局や地域住民と連携を図りながら地域連携(パートナーシップ)を構築しながら取り組んでいくことが必要である。

5. 外来生物の対策

外来生物の対策には、発生源対策とその普及啓発、監視活動が必要であることから、関係部局や地域住民と連携を図りながら地域連携(パートナーシップ)を構築しながら取り組んでいくことが必要である。


重点的に取り組む自然再生計画

(1)横断連続性の回復
1. 水陸移行帯・河原環境の再生
[昭和60年撮影]
かつての猪名川で見られた河原(8.4k付近)

かつての猪名川で見られた河原(8.4k付近)

現在の猪名川は、河道改修や高水敷造成、土砂供給量の減少等の様々な要因により水域・陸域の二極化進行している。

これにより、水域環境と陸域環境の遷移区間となる水陸移行帯が消失するとともに、本来裸地であった河原が安定植生域に変化し、かつて猪名川が有していた広い礫河原が消失した。

また、自然のダイナミズムによる水陸移行帯や河原の形成も難しくなっており、このような環境に依存する動植物の生息生育・繁殖の場としての機能、人と川とのふれあいの場としての機能を失いつつある。

そのため、現在干陸化している砂州を切り下げることにより人工的に裸地環境や水陸移行帯を再生するとともに、冠水頻度及び洪水時の掃流力を増大させることにより自然の営力により河原環境の維持を図っていく。

なお、横断形状の人為的改変や自然的かく乱に伴う、河道の物理環境や生態系等への応答についての科学的知見が現時点では十分でなく不確実な面があることから、施工後のモニタリングを継続して行いながら仮説と検証を繰り返し、物理環境の変化予測や生物への影響の関係等の知見を蓄積して、これを活用するものとする。

「河原環境・水陸移行帯の再生」整備イメージ

「河原環境・水陸移行帯の再生」整備イメージ


2. 湿地環境の再生
[平成15年撮影]
かつて下流域の湿地帯に広く群生していたヨシ原

かつて下流域の湿地帯に広く群生していたヨシ原

澪筋の固定化や土砂堆積による州の安定化等により水域・陸域の二極化が進行したため、湿地環境が減少し、本来有する多様な生態系の生育生息・繁殖場としての機能を失いつつある。

そのため、現状において湿地環境を有している箇所については保全を図っていくとともに、既に消失してしまった箇所については河川改修(掘削)の際に、治水安全度の確保や現在の高水敷の利用状況に配慮したうえで、水際部を緩い横断勾配で掘削、造成することにより、湿地および水陸移行帯の再生・創出する。

なお、湿地環境の再生・創出にあたっては、河岸及び水際部の形状、横断勾配、掘削高さ、保全対象の移植の有無等に着目して、施工地のモニタリングを継続して行いながら仮説と検証を繰り返し、物理環境の 変化予測や生物への影響の関係等の知見を蓄積して、これを活用するものとする。

「湿地環境の保全・再生」整備イメージ

「湿地環境の保全・再生」整備イメージ


(2)河川縦断方向の連続性回復

猪名川(直轄管理区間)には8 基の井堰・床固が設置されており、その中で、大井井堰(藻川)、三ヶ井井堰、高木井堰、久代北台井堰、池田床固には魚道が設置されていない。 これらの井堰及び床固及び左支川余野川との合流点にある落差工は、落差も大きいため上下流の連続性を分断しており、特に回遊性の魚類や底生動物等にとっては、その生息・生育に大きな影響を与えている。このため、これらの横断構造物について、抜本的な改築を伴わない範囲で新たに魚道を整備することにより、猪名川本川における河川縦断方向の連続性を確保する。

井堰・床固工の状況

井堰・床固工の状況

「湿地環境の保全・再生」整備イメージ

猪名川自然再生計画 目標と整備メニューもご覧下さい。
(PDF形式:672KB)


流域全体で取り組む自然再生

猪名川において優先的に取り組む自然再生事業のほか、特に「河川流量の減少」「水質の改善」「外来生物の侵入」らの課題に対しては、流域全体での継続的な取り組みによる対応が必要であり、関係部局や地域住民と調整を図りながら課題解決に向け連携して(パートナーシップ)取り組んでいく。

1. 河川流量の回復

水利用者など関係者も多く、様々な視点から検討調整する 必要があること、また、河川水の適正な利用や節水意識の高揚などの課題も併せて考えていく必要がある。

2. 水質の改善

河川の水質改善には先ず流域での発生源対策とその普及啓発が必要である。関係部局や地域住民と調整を図りながら地域連携を構築する必要がある。

3. 外来生物の対策

外来生物の対策には、発生源対策や「入れない」、「捨てない」、「拡げない」といった被害予防の普及啓発、監視活動が必要である。関係部局や地域住民と調整を図りながら防除体制などの地域連携を構築する必要がある。


なお、「河原環境の再生」、「水陸移行帯・湿地環境の保全・再生」、「河川縦断連続性の回復」についてもモニタリング等地域全体との協働(パートナーシップ)により実施する。


自然再生計画の進め方

自然再生計画の推進にあたっては、手戻りが生じないように河川改修事業と十分整合を図りながら、効率的に事業展開を図る必要がある。
そのため、自然再生計画を推進していくにあたっての基本方針を以下のとおり設定する。


  1. 河川改修において大規模な河道掘削が予定されており、さらにその掘削により当該区間で目標としている自然環境の再生が達成できる場合には、河川改修事業において断面形状や施工方法等を工夫することにより自然再生を図ることとする。
  2. 河道掘削が予定されていない、もしくは河川改修で河道掘削を実施しても当該区間の目標とする自然再生が図れないような区間については、自然再生事業により自然再生を図ることとする。
  3. ただし、試験施工については、上記に捕らわれることなく効率的なモニタリングが可能となる場所で実施することとする。

自然再生企画の推進方法

自然再生企画の推進方法


また、効率的・効果的に自然再生計画を推進していくための事業の段階整備計画は、以下に示した基本的な考え方に基づき立案していく。


【河原・水陸移行帯の再生事業】
河原・水陸移行帯の再生事業については以下の4つの視点から優先度を考える。

視点1:親水性の確保

公園等に利用されている高水敷前面に位置する、近傍に小学校が存在するなど、整備により利用向上が期待できる箇所を優先的に整備する。

視点2:維持管理の容易さ

自然の営力により河原が維持される箇所など、河原再生後の維持管理が容易な箇所を優先的に整備する。
(河原再生箇所は全て平均年最大流量時の撹乱により河原が維持されるよう計画されているが、その中でも大きな撹乱作用が期待できる箇所を優先的に整備する。)

視点3:生態環境の改善

現在の河川環境の劣化(砂州の陸地化や外来植生の侵入等)が進んでおり、再生した後の河川環境の改善効果が期待できる箇所を優先的に整備する。

視点4:景観の改善

多様な河川形状や、そこに生息・生育・繁茂する様々な生物は、変化に富んだ美しい景観を形成するとともに、沿川の住民に安らぎの場や自然とのふれあいの場を提供する。このため、景観的要素が期待できる箇所を優先的に整備する。


【縦断連続性の回復(魚道)事業】

  1. 平成18年度より実施した横断工作物影響調査の結果より、海域から遡上しているアユの遡上阻害となっている大井井堰、三ヶ井井堰について優先的に簡易魚道を整備する。(大井井堰については、本年度中に簡易魚道を整備する)
  2. 簡易魚道のモニタリング調査による知見を得ながら、順次遡上阻害となっている横断耕作物について下流から簡易魚道を整備する。

なお、下記の基本方針は現時点の知見に基づき設定したものであり、今後のモニタリング等を踏まえ随時変更がなされることを前提とする。


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