|
移植樹木について |
移植を行ったエノキ(エノキ属落葉高木)である。 |
移植工法について |
1 移植工事にあたり、約3年前という早い時期より移植対象樹木の樹勢や根の状態を調査し、研究機関の有識者とともに施工方法;樹木に最適なタイムスケジュール・根廻し方法・移植方法を検討した。 2 従来、根廻しは移植1年前に全周の環状剥皮を行ってきたが、本工事では樹木への負担を考慮し、環状剥皮を移植3年前の平成9年と11年の2回に分けて実施した。全周の1/4を対角線上に実施することによって十分な発根を促し、急な遮水による樹木の負担を軽減した。また、環状剥皮部分は完熟バーク堆肥で埋め戻して早期の発根を促し、その外周部にビニールシートを施工することによって、樹木をいわゆるポット苗状態にし、細根が根鉢周辺に密着した鉢の形成を目指した。 図1 環状剥皮手法図 3 移植工事の工法については、前述した通り(1)景観や生態系に影響を及ぼさないよう、現形状を維持(2)活着の確実性が高い(3)樹木に自重による負担をかけない、以上の3点を考慮した。また、下記の大型樹木移植方法選定の条件を検討し、工法を決定した。 ● 樹木の規格形状 ● 根鉢の状況、土質等 ● 樹木の総重量 ● 移植の距離 ● 樹木周辺の環境 (重機械の稼働可能) 検討の結果、移植工法にはジャッキアップを行いソリ・レールを使用した『立曳き工法』(図-2参照)を採用した。 立曳き工法は、古くから建造物や重量物の移動方法として用いられ、造園においても移植に伴う移動方法として用いられているが、これ程の大径木の現状を維持した移植は、他に類をみないと思われる。 本工事の立曳き工法では根鉢を鋼鉄製アングル(300mm・350mm)で固定し、油圧ジヤッキを使用して軌道レールを設置し、ソリ・鉄ゴロに樹木を乗せ、スライドジャッキにて横曳きを行った。 従来木材を使用していたものに改良を加え、安全性にも十分配慮した施工としている。
|
立曳き工法による移植施工 |
【準備工】 重機進入路・走路整備。既存樹木枝吊り及び覆鋼板設置。土留支保工。 【 樹木養生】 枯れ枝の剪定を行うが樹形は現状維持とする主幹枝の養生(樹皮欠損防止)、倒木防止用支柱設置。 (1) 根鉢周辺掘削 環状剥皮作業時に作成した根茎模式図に基づき、根の位置を明確にし掘削する。この時、バーク部を崩さないよう注意する。根の切ロ部は、チオファネートメチルペースト剤にて処理する。 (2) 下巻・コモ付け 鉢外周に菰仕けを行い、素縄4本取りにて樽巻きを行なう。 (3) ベイ尻仕上げ 臍を残し人力にて鉢底部を削り取る。 (4) 根巻き 素縄4本取りにて、四ッ掛け根巻きを行なう。縄掛けは、叩き道具にて十二分に締め、カゴメ掛け仕上げとする。 (5) 根鉢の養生 根鉢が弱い場合は、ワイヤーモッコにて鉢底を固定する。根鉢外周に養生用板を取り付ける。 (6) 根鉢固定 腰板及びカンザシを入れ根鉢の固定を行い、隙間にカスガイを打込む。カンザシ同士をレバーブロックにて締める。補強H鋼にて根鉢上部、腰板(H鋼)とカンザシ(H鋼)を溶接後、万力にて全体を固定する。腰板・カンザシの交点(4点)をジャッキアップするので重量バランスに注意する。 (7) 臍抜き (8) 立曳き 上記作業と平行に曳き出しルートの掘削及び植栽位置の準備を行う。完全に根鉢が分離された後に、腰板・カンザシの交点(4点)に油圧ジヤッキを設置し、ジャッキアップを行う。根鉢底より、枕木→軌道レール→鉄ゴロ→ソリを設置しジヤッキダウンする。樹木後部ソリの2点にスライドジヤッキを設置し、1ストローク80cmで曳き出す。 (9) 機材資材の撤去 移植地に到着した樹木は再度ジャッキアップを行い、根鉢底作上(客土)を施工しジャッキダウンする。作土の上に定着した樹木は、速やかに機材・資材の撤去を行い支柱、埋戻、水極めの作業を行う。 (10)埋め戻し完了 曳出しルートは転圧機械にて十分に締め固める。根鉢菰は、取り外し周辺の埋戻士に容積比20%分の完熟バークにて土壌改良を行い埋め戻す。根鉢の大きさにて水鉢を整形し、鉢底までいき渡るよう十分に水極めを行ない、水鉢内部にはマルチバーグにてマルチングを施す。 |
今後の管理方針 |
1)根鉢が乾燥する前に、鉢底に水がまわるように十分に繰り返し灌水する。灌水には液肥を混入し、夏期も同様に液肥を混入するが、通常使用量の10倍程度薄める。 2)剪定は樹木に負荷を与えないよう枯枝剪定程度とする。 3)移植後の支柱は約10年必要である。風に適度に反応し、根に刺激を与え発根を助長するような支柱とする。 4)根鉢周辺に踏圧防止のため人止め柵を設置する。 |
結論 |
2)根廻しにあたっては、環状剥皮を2回に分けて実施することにより、樹木への負担を軽減できた。発根状態は根鉢外周全体に緻密に張り巡らされるほど良好で、平成11年11月に実施した発根状況調査においても平均伸張量が50〜60mm、長いもので70mm程度が確認でき、移植に十分耐え得る鉢を形成することができた。 3)根鉢を鋼鉄製アングルで固定し、そのアングルをジャッキアップしレール上を移動させる立曳き工法により、約120tの全重量を根鉢底部で平均に受け、樹木への負荷を抑えることができ、根鉢の崩壊を防止できた。また、油圧ジャッキを使用し、スライドジャッキで押し出す工法により、急激な移動による傷みを防ぐことができた。 4)従来の移植工法では強剪定を行う必要があったが、立曳き工法の採用により、樹形を維持した形で移植を実施できた。 5)現時点では移植樹木の発芽状況から活着状況は良好と言える。 |