第3章 情報を活用するために

1. 情報不足による混乱
 避難生活において、ライフラインの断絶により一番困ったのは水の確保であり、とりわけトイレの水が確保できずに困った。多くの被災者は、水が十分に使えないことによって、洗濯や風呂が制限された。

 被害情報の不足と困難だった情報収集活動に関する体験者の声
 情報入手がやや困難:各種情報(他医療機関の被害状況・救援物資等)を行政当局のどこのセクションで取り扱っているか不明であった。(行政側も混乱されていた様子だった。)
【医療関係者】

 被害情報が全く入ってこなかった。車が使用できなかった。電話(公衆含む)が使用できなかった。健全な他都市(近隣)の情報が入ってこなかった。
【消防隊員】

 情報伝達方法の不足と情報のかたより。電話が使えない、情報はほとんどテレビに頼っていたが、マスメディアは一部のみにかたより(大きな避難所等)、無数の小避難所の情報は行政にも伝わらなかった。
【ボランティア団体】

 情報不足に対する手段としては、署前に押し出した消防車両のカーラジオからNHKニュースを聞き、現場付近で広報した。また、管内一帯の具体的な被災の状況については、署前に指揮所を設け、来署して通報する市民から直接収集した。消防無線については、当時1波しかなかったのでほとんど活用できなかった。
【消防隊員】
資料:「震災とインフラ施設に関する体験・意見の募集アンケート」


 被害状況がすぐに把握できなかったことによって、救助の支援要請や交通規制が遅れ、そのことが救助の遅れにつながった。

 連絡が取れず、被災地外への支援要請が遅れた
 自衛隊と県では、相互に災害派遣にかかる情報交換等のため懸命に通信を試みていたが、10時、姫路駐屯地(陸上自衛隊第3特科連隊)とようやく2回目の連絡が取れ、県から自衛隊への災害派遣を要請した。
出典:『阪神・淡路大震災−兵庫県の1年の記録』(兵庫県、1996年)


 通信の混乱で被害情報が収集できず、道路の交通規制が遅れた
 当日交通管制センターに行って確認したところ、中央表示板等コンピューター関係はすべてダウンしていたため、交通管制センターは、「電話が比較的多くある会議室」という程度のものになっていました。その中で、交通対策に取り組まざるを得なかったのです。電話がつながりにくくなったといっても、当初は、警察(の内線)電話で警察署等と連絡がとれただけでなく、建設省や県を始めとする各道路管理者とも比較的連絡がとれました。しかしながら、その段階では、どこにもそれほど情報が集まっておらず、情報が集まり出したころには、(外からかかってくる電話ですべての電話がふさがり)電話がお互いになかなかつながらない状況になっていました(こちらからつながらずイライラしたことを覚えていますが、相手からもつながらず苦労していたことを後から聞きました。)
出典:『その時最前線では』(東京法令出版、2000年)


 また、救助にあたっていた警察官や消防隊員などの中には、自らが被災者で、家族の安否を心配しながら確認もできず、救助に携わらざるをえなかった人も多かった。

 自らの家族の安否も心配しながら救助に当たった警察官の声
 自宅にかなりの被害を受けたが、とりあえずそのまま出勤し、以後数日間自宅に帰ることなく救助活動に従事しました。その間、妻子は自宅で生活していたのですが、私は被災直後、妻に「とりあえず出勤してくる」と言って家を出たのですが、その後の家族が心配で何度も自宅に連絡しても電話が不通で、どうしようもない不安な気持ちで救助活動に当たっていました。
【警察官】
資料:「震災とインフラ施設に関する体験・意見の募集アンケート」


 さらに、情報があまり入手できない避難生活の中で、被災者がマスコミなどに求めていた情報は、道路や鉄道などの交通機関の復旧の目途や、電気・水道・ガスなどの供給処理施設の復旧の目途、あるいは、二次災害の危険な場所についての情報などであった。

 被災地では社会基盤復旧の目途などに関する情報も求められていた
 被災者からTV局にもっと伝えて欲しい情報として要望が多かったことは、(1)道路、鉄道の復旧のメド。(2)電気、水道、ガスの復旧のメド。(3)土砂崩れなど二次災害の危険箇所。
【報道関係者】
資料:「震災とインフラ施設に関する体験・意見の募集アンケート」



2. 情報システムの上手な活用
 まず、日頃から飲料水等を備蓄したり、お風呂に水を溜めておくことなどが考えられ、こうした備えが功を奏した体験も語られている。

 防災情報システムのそのものの被災
 防災情報システムの整備で気になる点の一つは、震災で兵庫県の防災行政無線が一時的に不通になったり、神戸市消防局の高所監視カメラが故障するなど、日本の誇る防災情報システムがほとんど機能停止した点である。
出典:「専門家分析・東京大学広井脩教授 住民への伝達法、整備急げ」『毎日新聞』(1997.01.17)


 情報機器本体が被害にあう場合もあったが、電気や水などのライフラインが利用できなかったことにより、システムが機能しなくなった場合もあった。

 情報システムが停電でダウン、自家発電機も冷却水の断水で停止
 県庁舎は、地震と同時に停電、すぐに自家発電装置に切り替わった。ところが、断水で冷却水が途絶えたため発電機は停止、1号館と2号館が停止状態となる。兵庫県には衛星を利用して県内の市町や関係機関を結ぶ「兵庫衛星通信ネットワーク」があった。災害時などに威力を発揮する衛星通信システムだ。だが、機器自体は自家発電の作動した3号館にあったものの、アンテナと送受信機が停電した1号館に設置されていたため、システム全体が機能しなくなってしまった。
出典:『阪神・淡路大震災被災地“神戸”の記録』(1996年、ぎょうせい)


 被災を免れた電話回線には、通常のピーク時の50倍の電話が殺到したためパンクしてしまった。殺到した電話の多くは、被災地内の親戚・知人等に対する安否確認であり、その結果、道路と同様、最優先の情報収集が乱れ、対策の遅れにつながった。
 また、電話回線がパンクして、安否確認ができなかったため、自動車で安否確認に来る人も多く、これが道路渋滞を促進し、救助活動等を妨げることにもつながった。


 被災日に通常のピークの50倍の電話が殺到
通信回線の断絶
 阪神地区では、285,000回線という大量の電話回線が不通になった。地震が発生した17日には、通常のピーク時の50倍の電話が被災地に向け殺到した。日本電信電話(NTT)は通話制限を行うことで警察や消防など人命救助のための通信を確保したが、これも回線渋滞の一因となった。被災地は、一時は外部との連絡がとれない「情報の陸の孤島」状態となったのである。
 その中で、公衆電話(赤電話を除く)は緊急性が高いとの考えから、規制の対象外となり、比較的通話が可能だった。(ただし、停電の中ではテレフォンカードは使用できず、またコインがすぐに満杯になるなどの問題が生じた。)
出典:『ボランティア革命』(東洋経済新報社、1996年)


 電話回線がパンクしたことを教訓に、NTTの「171」システムが設立され、被災時の情報収集を妨げることが無いような対策が図られた。今後は、このシステムの活用が期待されている。


 震災の教訓から生まれた制度 NTT災害用伝言ダイヤル「171」
 地震など大災害発生時は、安否確認、見舞、問合せなどの電話が爆発的に増加し、電話がつながり難い状況(電話ふくそう)が1日〜数日間続き、阪神・淡路大震災では、電話ふくそうが5日間続いた。
 NTTでは、この様な状況の緩和を図るため、災害時に限定して利用可能な「災害用伝言ダイヤル」を平成10年3月31日から提供している。災害用伝言ダイヤルは、被災地内の電話番号をメールボックスとして、安否等の情報を音声により伝達するボイスメールである。
災害時は、被災地内と、全国から被災地への電話回線は混雑するが、被災地から全国への発信回線、被災地外と全国間の電話回線は比較的余裕があるので、安否情報等の伝言を比較的余裕のある全国へ分散させるしくみであり、安否等の確認が比較的スムーズに行えるようになっている。
 また、NTTの機械が伝言を中継するので、(1)避難等により電話に応答できない人への連絡、(2)停電、被災により自宅の電話が使えない場合の連絡、が可能となる他、(3)呼出しても応答のない電話が減少するなど、この面からも、安否情報の伝達性向上が図られている。


資料:NTT(http://www.ntt-west.co.jp


<総合防災情報ネットワークの整備>
 国土交通省では、災害時の行政機関等の情報収集・伝達を強化するという観点から、中央防災機関と都道府県・公団等とを結ぶ無線通信回線の総合ネットワーク化を推進している。また、公共施設管理用光ファイバ等の整備も進めている。併せて、河川情報システム、道路災害情報ネットワークシステムの強化・連携等を図っている。



総合防災情報ネットワークのイメージ


 行政機関等では、インターネットや携帯電話を利用した河川・道路等の情報発信が行われるなど、新しい手段を活用した情報の提供も取り組まれている。


 インターネット・携帯電話を利用した情報提供
<災害関連情報を提供しているホームページの例>
 災害に関する被災状況やボランティアに関する情報は、行政・民間ともに数多く提供されており、下記の情報入手先は、その一部である。ホームページには、関連するリンク先も載っているので、活用が期待されている。

○国の関係機関が提供する主な情報

○兵庫県が提供する主な情報

(平成13年12月現在)



3. 見直された「人」の情報
 まず、日頃から飲料水等を備蓄したり、お風呂に水を溜めておくことなどが考えられ、こうした備えが功を奏した体験も語られている。

 救出を早めた近所づきあい
 震源地の淡路・北淡町。倒壊家屋があふれ、あちこちから煙が立ち上る。町消防団の団員565人が自宅を飛び出した。吾妻鉄也団長(69)は自転車で現場に走った。
 「おばあちゃんが家の中に取り残された」。倒壊家屋のそばで、家族ががれきの山を指さした。団員は、だれがどこに寝ているかを知っていた。目指す場所は分かっている。落ちた屋根の瓦を除き始めた。
 地域の付き合いが緊密な土地柄が救出時間を短縮した。全半壊約1,900棟の同町で、地震発生から8時間後には、町民全員の安否が確認できた。
出典:『大震災 その時、わが街は』(神戸新聞社編、1995年)


 日頃からの近所づきあいが大事であることの指摘
 隣近所に誰が住んでいるのかを知っていることが助ける時に必要である。日頃からいざという時に助け合いが出来るか、仲間づくりが必要。
【被災住民】

 日頃から地域に馴染みのない人が埋もれたままで発掘救助に手間取った。
【被災住民】
資料:「震災とインフラ施設に関する体験・意見の募集アンケート」


 被害状況の把握のためには人手も必要であることから、過去の経験を持った人に、災害時の公共土木施設に関する被害状況の収集や、施設管理者への連絡を協力してもらう、「防災エキスパート制度」が国や地方公共団体で設置されている。


 震災の教訓から生まれた防災エキスパート制度
 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機に、災害時におけるボランティアの果たす役割の重要性が認識された。国土交通省においても、公共土木施設等の被害情報の迅速な収集等をボランティアとして行う「防災エキスパート制度」を平成8年1月に発足させ、これまでに全地方整備局、北海道開発局、沖縄総合事務局において約4,900名の方々が防災エキスパートとして登録されている。地方公共団体においても、東京都、三重県、兵庫県、山口県、徳島県、高知県、福岡県、長崎県において制度が発足している。