淀川水系流域委員会 第3回猪名川部会
現地視察感想発表会議事録

日時:平成13年6月21日(木)17:00〜18:30
場所:ホテル エアポートふじ 「ブルーベリーハウス」




 

○米山部会長(委員会・猪名川部会)

・ 長期的に考える場合、100年で考えると、人口は半分になる。こんなにたくさん家を建てても、将来、草が生えるだけになってしまうかも知れない。

・ この委員会の目標は、20〜30年後にある。100年後ではない。30年後、現在以上に住宅開発が進むとことは考える必要はないと思う。現在は開発が進み、一種の飽和点となっている。水と緑の健康都市も計画を縮小している。そういったことを念頭に置くべきである。

・ 猪名川全域で考えた場合、全体として都市河川となっている。淀川で見た場合、琵琶湖周辺等はまだ発展途上である。

○田中委員(猪名川部会)

・ 猪名川のことを殆ど知らなかった。35年前に止々呂美の自治会館付近でニジマスを釣ったことがありますが、その時と比べ、どの川もスケールが小さくなった、河川の領分が減っていると感じる。

・ 下流の扇状地にある宝塚や伊丹のことを考えると、もともと住んではいけないところに現在住んでしまっているわけであるが、どうしたらよいのかと思う。

・ 30年後には実現できなくても、100年後には実現できる計画のワンステップを30年後の目標として考えていく必要がある。

・ 河川はいろいろな要素機能をもっているが、最も大切なのは河川の生物生産力だと思う。これまで治水というのは、財産を守るために、河川の生物生産力を完全に犠牲にしてきた。

・ 都市河川である猪名川で成立するかどうかわからないが、一般的には農業がはじまり、江戸時代の大名たちが大河川の沖積平野を治め、開拓によって河川の氾濫原をなくしてきた。それにより河川の生産力は下がったと思うが、米の生産力は上がった。

・ 主食としての米、副食としての魚の自給を確保させるために河川の生産力をもう一度考えてみる必要があるのではないか。そのスタートとなるのが「鮎」である。鮎は10分の1になる。藻類食でありその単位面積辺りの生産力はものすごく、恐らくヨーロッパ等の渓流にいるサケ・マスの10〜100倍はある。鮎は西日本の河川の生産力を左右するものであるにもかかわらず、まともに鮎が住み生活できる河川をさまざまな改修工事やダムによって潰してきた。なんとか復活させたい。

・ 鮎を余野川にまで戻したい。そうすればお金をかけて鮎の稚魚を放流する必要はない。海と川をつなぎ、鮎を復活させるような状況に河川の生物生産力を確保あるいは増加させるというのが真の国土建設である。河川また沿岸の生物生産力、農業基盤の確保を100年後の目標として整備し直さねばならない。河川や沿岸海域の生産力や農業に日本人が頼らなければならなくなる時が必ずくる。

・ 潮止めえん堤、砂防えん堤やダムで鮎の移動を止めるのは避けたい。鮎が育つ瀬と淵がなくなってきているが、明治時代の頃の蛇行した河道に戻せるところは戻して欲しい。蛇行を復活させれば淵と瀬は河川が自ら再創出する。

・ 余野川の分派堰はいつも締め切っているのか(質問)。

○河川管理者(近畿地方整備局 猪名川総合開発工事事務所長 田村)

・ 余野川分派堰は固定式なので締め切っていると言う表現はおかしいが、堰の横に魚道を設けてあります。また、堰により下流に必要な量の水を流すようにもなってます。

・ 余野川が洪水の時、分派堰に水が多く流れて来るので、分派堰から余野川ダムへ洪水を導きます。

○田中委員(猪名川部会)

・ 天ヶ瀬ダムは瀬田川洗堰があるので洪水調節という意味では必要ないのではないか。淀川、琵琶湖の流入河川において一本くらいは海と源流が連続した川を手を付けずに残せないか。

○畑委員(猪名川部会)

・ 都市と農業がうまく結びついた、河川の洪水等の対策を立てられないか。

・ そのためには、地域全体の貯留量の確保が一番重要だと考えている。宅地開発が続いているが、自然の貯留効果を十分確保していくというのが重要である。

・ 農業生産を支援する形で、都市の洪水を防ぐことができないのか、そういう協力関係ができないかと考えている。

・ ため池の維持管理が一部では難しくなってきている。調整池を視察したが、コンクリートで高く積み上げ、貯留量を確保し、土えん堤よりは強固になったのではないか。景観上及び水質面での問題はあるが、容量的な面で見れば、調整池として有効な土地利用となっている。

・ 調整池による洪水調節機能は確かに大きなものがあろう。開発と洪水の危険度との関係については吟味が必要である。宅造地のすべての水が調整池に集まるわけではない。

・ 都市への人口集中は続いており、解決が難しい問題である。山地部での宅地開発が続いているが、現在残っている農地や森林をなんとか保全することはできないだろうか。

・ 安定した農業経営が難しい状況という実態があるが、都市部との協力関係を強化して、農業生産を堅持しつつ、かつ、浸透性の土地を維持し、貯留容量を確保していくことが必要であり、そのような方策を考えていきたい。

・ 視察中に説明のあったように、河畔林が守られ、それが市民に活用されているという姿は、人と自然との共生という時代の中で素晴らしいことであり、今後の河川整備の中でこのようなことについても検討していって欲しい。

○米山部会長(委員会・猪名川部会)

・ 棚田が洪水調節に果たしている役割はばかにならない。水田、棚田も含め、水を制御するのに役立っている。

・ これまでは省庁間でセクショナリズムがあり、農業土木と建設土木は別ということで、資源の有効利用ができていない部分があった。客観的に棚田を保水、利水のために国家資産・資源として活用できるかということを、国土交通省、農林水産省のどちらも見ていないところがあった。

・ 中山間地で過疎が進むなか、一部の農家を除き、大部分の農家は兼業でないと食べていけない。それは幸せな兼業ではない。昔あった鉄道の駅長や、小学校の先生をやりながら農業を兼業するというのではなく、現在は出稼ぎ型の兼業になっている。結果として都市に住みついてしまい、都市で家を買う。長男までが出ていってしまうというような状況が起こっている。

・ 農業問題は国土計画の中で大きな比重を占める。農業政策を交易問題だけで解決するのでは意味がない。国土保全、環境保全の観点から棚田を考える必要がある。

・ 国土保全の観点から農業を国民全体がサポートする体制を真剣に考えないといけない。都市の問題、農村の問題と、分けて考えられないことがある。一元的に考えるべきではないか。

○細川委員(猪名川部会)

・ はじめて視察する場所ばかりで、楽しみにしてきた。実際、それ以上に凄い物をたくさん見、いろいろ教えて頂けてよかった。

・ 委員という、難しい役を簡単に引き受けてしまったと実感している。こんなに「勉強しないといけない」と思ったのは初めてなくらい、大変な思いをしている。

・ ダム、住宅開発現場、調整池を見て、大変な設備がつくられ、様々な工夫がされていることに驚いた。

・ 一方で、これだけの建設費用、維持費をかけて、ほとんど一般の人には利用されることがないものや、常時、実際に必要とされるのかと思われる大量の貯水量を見るにつけ、その隣にある現実に使われつつ、保水力もあり、洪水も防ぐ力をもっている田畑や森林の力は有効、貴重なものである。それがあってこそ、現在ある程度の設備で間に合っているように思う。もっと見直されてよいのではないか。

・ 水田がこのような機能を失ったら大変なことになる。尼崎市でも、農地の問題は深刻である。自分の住んでいる地域は比較的農地がたくさん残っており、今、尼崎市と共同でできるだけ農地を残していく活動をしている最中である。

・ 耕作者が老齢化によって、耕作が不可能となったり、或いは亡くなったりした場合、税制の問題で耕作農地として維持できなくなると、農地が手放されてしまう。そのために、耕作が困難な人の農地を借りて耕作を手伝うという形でボランティア活動をやっている。

・ 下流では、自分の記憶では堤防が破堤したのが1回、側の溝が流れなくなり、溝から水が溢れ出て浸水したことが1回しか記憶にない。そういう安全は今まで懸命に守られてきたものであって、これから先の安全を守るのはもっと難しい。

・ 農地や森林の確保にもっと積極的な努力が必要である。

・ ダムの開発と宅地開発が抱き合わせで開発することを考えると、失われる自然や資源、従来もっていた機能を失ってまで、これほどのお金をかけて本当に宅地開発が是非とも必要なものなのか、慎重に検討する時代になっている。

○畚野委員(猪名川部会)

・ 本日視察した箇所は、動物の痕跡や自然を観察するため、いつも歩き回っているところだったが、例えばいつも行く同じ団地でも、横にある調整池等には入れないし、行かない。今日、案内して頂き、実際に中に入って見せて頂き、本当にこういうものがあるのだと認識できてよかった。

・ 今日説明頂いたのは「官」の視点から見た川だと思う。

・ いわゆる住民運動に関わっている者として、これまでの治水のための貴重な努力はわかるが、それで済ませてよいのかということがこの流域委員会のポイントだと思う。

・ ダムを建設する、河川整備をする際には、計画段階、実施段階でいろいろなステップがある。この流域委員会では、それぞれの段階で住民意見を聴いていくしくみを作りあげていく必要がある。その具体的施策、方策を委員会の取り組みの目標として取り上げてもらいたい。

・ ダムや河川整備にもいろいろなステップがある。今回の委員会でNPOの意見を聴いてもらえるようになったのは進歩であり、あらゆるステップで住民の意見を聞く仕組みを作るための方策をどう作っていくか、委員会で検討して欲しい。

・ 住民パワーが眠っている。今日廻った川西はベットタウンである。住民は朝起きたら通勤電車で大阪へ行き、帰ってきて寝るだけで、河川のことに無関心である。河川から心が離れていることが残念である。

・ 主婦たちが河川付近を歩いてみて、河川がおかしくなっていることを身体で感じはじめている。河川がおかしくなっていると感じ、住民運動を起こし、主婦たちが行政と関わるようになってきた。

・ 一般住民の意識改革が必要で、そのために河川に関心をもってもらう取り組みが必要である。水防団の組織等は存在しているが、工事後の住民によるモニターや、維持管理の面等も含め、住民と絶えず接触をとって欲しい。環境をよくしていくためには住民の協力が今後は大切である。そういう面の仕組みづくりの提案をしていきたい。

・ 大規模な住宅地には調整池の整備が義務づけられているが、面積の大きいゴルフ場開発での義務付けはどうなっているのか。

・ 一庫ダムにブラックバスやブルーギルが入ってきているとの説明があったが、外来種の問題は生態学的に問題であり、河川管理者の責任外のことかも知れないが、釣り人への教育や啓発等、手があるのではないか。

・ 猪名川下流域で、川の中から柳が生え、僅かの期間、柳の毛が飛ぶという話があった。これについて住民からの苦情が出た場合、切ってしまうのが無難かも知れないが、何も言わないが残して欲しいと思っている人たちも多い場合、切らずにおいておく意味付けはないのか。何事につけ、住民が納得できる行政の対応をお願いしたい。

○河川管理者(近畿地方整備局 河川調査官 水野)

・ ゴルフ場等の大規模開発については、ニュータウンと同じで調整池をつくる義務がある。

・ 外来種の問題については先ず、どのような生態系であるべきかというコンセンサスが得られていないという面がある。河川は皆が使う場なので、ブラックバスを釣りたいと言う人もいれば、古い生態系を残すべきだという人もいる。コンセンサスを得る努力が大切と認識している。

・ コンセンサスづくりの場を提供するという部分で河川管理者が寄与する部分があるのと思うが、河川管理者だけではどうしようもない部分もある。

○米山部会長(委員会・猪名川部会)

・ ブラックバスの問題は、生態系を守ろうという人には真剣な問題であるが、混血は許されないというのもおかしな話である。

・ 和歌山県で台湾ザルが入ってきて日本ザルが混血となってしまうので、殺してしまうということになった。和歌山県の場合は台湾ザルが逃げ出したという事情もあるが、混血は許されないというのはナンセンスで、ブラックバスを完全に排除してしまうという極端な話になってはいけない。処分してしまえという話は乱暴で、それぞれの種の差別問題につながる話でもある。

○本多委員(猪名川部会)

・ 住宅開発をした場合、人工的に水を貯める調整池も必要であると視察を通して感じた。

・ 調整池本来の機能維持のために砂をとる、葦を刈る等の整備が必要との話を聞いた。100%調整池として使わなければならないのかも知れないが、過去のデータを見て、80%は人の生命、暮らしの為に使うが、残りの20%は環境のために使っても支障がないのであれば、調整池は逆に環境保全の場所になり得るのではないか。

・ 2つ目に視察した井谷調節池はコンクリートで、景観を考える必要があるのではないかと思った。

・ 一庫ダムでは文化的な取り組みをしている。中身に問題もあったと聞くが、ソフトの問題に取り組んでいる。水辺の周辺を整備し、ふれあう空間を作る等、頑張っていると感じた。

・ 自然保護団体等は環境に関するノウハウ等をもっているので、市民参画をもっと推進し、「こういう整備が必要」という声を聴く必要があると思う。ソフト事業があって、そのためにハード事業の整備があると考えている。はじめから整備ありきではないと思う。

・ 「市民参画」というと、国土交通省は、提案をしないで、行政を責めるばかりだというイメージがあるのかも知れないが、よいものを作りあげていくためには、そういうことを乗り越え、お互いに同じテーブルについて、議論する必要がある。そのために市民側も、行政ももっと鍛えねばならないし、変わらなければならないと思う。

・ 自治体と水資源開発公団だけで事業を進めている事業があると先ほど聞いたが、市民もノウハウをもっている。自然保護や治水・利水を真面目に考えている人たちがいる。同じテーブルについて、お互いに提案し合い、事業を進めるようにして欲しい。

・ 余野川ダムだけではなく、猪名川全体をみると、活水・利水等の面でいろいろと難しい問題がある。

・ 小学校3年生の総合学習と小学校2年生の生活科に協力しているが、そのなかで地球環境の問題を考えるために、歴史を振り返ると、地球が誕生して46億年の歴史の中で、地球が緑に覆われて、生物が住めるようになったのはほんの2億5000年前である、それまではオゾン層もなくて、42億年くらいかけて生物が住めるようになった。この40〜50年で何十億年とかけてやってきたものを潰してしまってよいのかという気がする。

・ 自然保護は動物愛護だけではなく、人の暮らしを守るためのものと思っている。同じ方向を目指しているので、どこかに接点があるはずだと思う。

・ 自然の中で人間が暮らしてきたということは、様々な歴史や文化、伝統、技能もその中で培われてきた。それらを一緒に潰してしまったら、歴史遺産を潰してしまうことになると思う。自然だけではなく、人の暮らしの様々な部分も伝えていける方法を考えなければならない。

・ 自然や景観はそこの地域に住む人の暮らしや意識を反映している。30年先の猪名川の総合開発を、どんな結論として出すのか、我々の意識レベルが問われると痛感している。

○松本委員(猪名川部会)

・ 猪名川パークタウンの遊水池は、いつも外から眺めて無粋なものだと思ってきた。最近は総合的な治水という方向で進んでおり、いろいろな所に水を貯める施設をつくることは大切だが、もう少し工夫すれば、景観や生物に配慮したやり方ができるのではないか。

・ 地域住民の意見をどう反映していくかが大きな課題である。地域住民とは誰を指すのか、その中の多様な意見をどう調整するか。

・ 今までの行政は、声の大きな人、特定の政治権力に結びついた人の意見だけが反映されてきたような気がする。現状の環境が望ましいと思う多くの人は黙っている。現状を変えたい一部の人が声をあげ、行政はその声を住民の意思と受け止め税金を使い工事をする場合がある。現状をよしとして黙っている多くの人の声が反映されないのは問題である。

・ 日頃猪名川の河川敷を利用して自然観察会を実施し、植物観察や魚取りをしているが、そういう場所がコンクリートで固められたり、芝生を植えられたり、何故このようなことが事前の連絡もなく実施されるのかと思う。

・ その場所に関心をもっている住民、その場所を使用している人々のコンセンサスを得る場を丁寧に用意していくシステムや組織づくりが重要である。その上で工事を進める方策を考えていかねばならない。ある日突然、工事が始まり「どうして?」という思いをすることが多いが、説明を聞いたら納得できる部分もある。

・ 住民への説明や事業を進めるプロセスの工夫を、もっと多面的に丁寧に広く伝える等、できるのではないか。

○米山部会長(委員会・猪名川部会)

・ 現地視察は2回でよいだろうか。現地を見ることは意味がある。まだ見落としているところがある、見ておいたほうがよいという場所等を意見としてこの場で出して欲しい。

○本多委員(猪名川部会)

・ 外側から視察したが、河川の中に入ってみると、川の流れ、深さ、どういう生き物がいるのか等、体験的にわかる。表面から見るだけでなく内側から知ることも重要である。

・ 7月22日に余野川の水生昆虫の観察会があるので、部会としてではなく、個人でそういうところへも参加し、実際に川の中に入ってみるというのもよい経験だと思う。もし、案内をしてもらえれば、参加しやすいと思う。

○河川管理者(近畿地方整備局 猪名川総合開発工事事務所長 田村)

・ 7月22日に水生生物調査がある。

・ 希望される委員が参加して頂けるよう調整する。希望者を取りまとめたいので、委員には後日ご案内するようにしたい。

○松本委員(猪名川部会)

・ 部会メンバー内でまだ話し合いが十分にできていない段階である。話し合いを進めていく中で具体的に視察希望地が出された時、タイミングに応じて「ここが必要」となれば、その時に視察すればよいのではないか。

○米山部会長(委員会・猪名川部会)

・ 資料のリクエストがあれば、河川管理者側にこの機会に言っておいてはどうか。

○本多委員(猪名川部会)

・ 国土交通省の管轄ではないと思うが、宮川流域ルネッサンス事業(三重県)で、宮川流域を活用して自然とふれあう体験をするという、インタープリターの養成をしているらしい。ホームページでみただけなので、どのようなことをしているのかわからない。そのような資料があるのであれば、是非、参考にしたい。

○河川管理者(近畿地方整備局 河川調査官 水野)

・ 本日、住民参加の話が出たが、今後、近畿地方整備局管内、或いは全国で住民参加活動を展開している事例で、我々が把握しているものについて、少し整理して説明したい。今後の参考になるのではないかと思っている。

 

以上



 

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