淀川水系流域委員会 第4回猪名川部会(2001.8.7開催)速報

2001年8月28日現在
部会長 米山 俊直

1.部会長からの説明

○ 2000年の水質調査で、猪名川がワースト5にランクされた。猪名川は都市河川の典型的な例であり、今後、淀川本川や琵琶湖も同じところまで至るかもしれない。

○ 都市河川の典型的な例として、「猪名川モデル」を定義し、できるだけ早く委員会に提出するところまでもっていきたい。次の運営委員会でこのことについて提案したい。

○ 「猪名川モデル」として名前を付けるに値する最適解を総力を結集して見つけ出したい。

(河川管理者からの補足説明)

○ 部会長の要請により河川管理者より資料2補足(7月26日に発表された2000年の全国一級河川の水質調査結果に関する資料)の説明が行われた。

(主な発言内容)

○ 水質調査の調査地点の選定根拠は何か。調査地点の一つである利倉は、下水処理場の排水が流れ出すところであり、猪名川でも水質の悪いところである。合理的な調査地点の選び方はないのか。また、各河川との比較において、BODの平均値をその河川の実状として出すということが妥当なのか。

○ ワースト5に入ったことは市民の感覚とは違っており、この調査結果が実態に即していないように感じる。河川管理者からマスコミに対しての情報提供の仕方に問題があるのではないか。

○ 調査地点は、直轄区間の上・中・下流からバランス良くサンプリングしている。これは環境省によって決められており、全国共通の方法である。(河川管理者)

○ 3つの調査地点の中で、利倉は下水処理場の排水ポイントとなっているため、BODの値が他の地点に比べてかなり高くなっている。(河川管理者)

○ 記者発表では、ワースト何位といった発表はしていないが、マスコミとしてはワースト何位といったほうが記事になりやすいので、このような形の記事になっている。現在、猪名川の水質はそれほど悪くはない。調査が開始された1972年からみると大幅に改善されており、全国の河川も同様に改善されている。(河川管理者)

○ 猪名川と藻川で水質が全く変わるというのが不思議で、子ども達と調べたことがあるが、猪名川は用水路との合流箇所が多く、合流のたびに水質が悪くなっている。用水路には、工場から航空機や車体の洗浄水が流れ込んでいるという噂もある。噂が事実かどうかも含めて、実態をきちんと調べることが重要である。

○ 自分勝手な方がたくさんおり、その積み重ねが川を汚している。浄水場で水をきれいにするのは良いが、そのためには税金がかかる。市民の意識を向上させる方が税金の節約になるのではないか。

2.第3回、第4回委員会の概要

○ 庶務より資料1を用いて、第3回及び第4回委員会の概要が説明された。

3.水生生物調査についての報告

○ 7月22日に猪名川総合工事事務所主催で行われた水生生物調査について、当日参加された本多委員より報告がなされた。

※第3回部会(現地視察)の感想発表会において、ある委員から「観察会など、実際に川の中に入って現状認識することも重要なのではないか」という意見が出されました。これに対して、猪名川総合開発工事事務所より、「7月22日に余野川において水生生物の調査を行う予定なので、希望する委員には参加頂けるよう手配したい」との申し出がありました。

4.猪名川の現状(環境)についての情報提供

○ 河川管理者より猪名川の環境について以下の説明が行われた。
・水質
・生態系

○ 畚野委員より資料2について以下の説明があった。
・市民たちが見た猪名川の環境:現状と問題点

(主な発言内容)

○ 市民の意識が大切という意見があったが、不法投棄などについては市民の側からも考えることが大切である。(部会長)

○ 畚野委員ご指摘のダム下流の流量については、利水や環境の中で平常時の流量をどう確保するのかという点から、今後説明させていただきたい。(河川管理者)

○ 猪名川は明らかに上流部と市街地域、下流域で水質が違う。この辺りをどう考えるのか。オオサンショウウオについても、上流の方で生息しているが、土砂が入ると生息できなくなってしまう。市街地域においては、フラッシュ水が非常に高いBOD値を示すという話があり、降雨後に非常に高い汚染水が入ってくる。

○ 「猪名川モデル」といったモデルを考えるとすると、いろいろなケース別にある程度の方向付けをしなければならない。

○ 大和川と猪名川がワースト5に入っているのは、水質を表す指標としてBODを用いていることも要因で、その点に問題がある。BODは、調査地点の状況や水の採取の仕方に左右されやすく、不安定な値である。

○ 猪名川は都市河川の中でこれほどの優等生はいないというほど良くなっている。しかし、今のような調査方法では良くなっているということが表現できない。表現できるような項目を選び直さなければならない。

○ 猪名川に鮎がいないのは水質が悪いからではない。鮎が生息するかしないかは、冬の間に生物がいるかどうかにかかっている。猪名川では、冬の渇水によってその生物がいなくなり、鮎が生息できなくなっている。

○ 人が川との関わりを止めた時点で、川は放置された休耕田と同じで、放置された状態に適した生物、外来種が繁殖する。

○ 川の環境の実態とデータが違うのではないかという意見があるが、いろいろな調査の方法がある。日本自然保護協会では、人と自然とのふれあいを評価する方法の開発に取り組んでいる。水質だけでなく、人々がその河川をどう思ったのかという気持ちもデータとして集めることが、河川を評価することにつながっていく。

○ 河川と人がどう関わっていくかというところに、インタープリター(通訳)が必要になってくるのではないか。ただ単に歴史や文化を伝えていくだけでなく、事物の背景まで話すことがインタープリテーションであり、話す人がインタープリターである。この整備計画の中にもしっかりと位置づけたい。

○ 市民と河川を結びつける「通訳」が必要、という意見は重要である。(部会長)

○ 水生生物が河川で生息するために必要なのは、第一に水量であり、その次に水質、そして河川の物理的、生物的な構造であると思う。その中で一番人間とあつれきを起こしやすいのは水量である。渇水時には人間も水が必要だが、魚も必要である。「猪名川モデル」において、水量を考えるのであれば、渇水時に人間の生活活動を犠牲にして、生物のために水を流すという決断が必要ではないか。

○ 「猪名川モデル」を考える意味では、無謀な開発をしている所は元に戻すという決断も30年後を考えると必要である。例えば、銀橋の狭窄部では、拡張を前提とするのではなく、浸水区域にある住宅を移転させ、遊水池の機能を復活させることも考えられる。

○ 「猪名川モデル」の大きな目標として、都市河川でありながら海から上流まで勝手に魚が戻ってくる河川を目指したい。

○ 理想は高く、ということで将来像を考えることは重要である。100年の大計で考えた場合、元に戻すこともこれからは人口が減っていくので可能かもしれない。(部会長)

○ 都市公園の中で、河川敷の占める割合がかなり大きいという話があったが、農地もかなりな大きさである。このような農地の役割を評価していくことが環境保全上、また歴史的な土地利用の維持という意味でも重要だと思う。

○ 農地を貯留施設としてみた場合、1000haの農地で、10cm嵩上げを行うと、100万t程度の貯留能力が確保できる。農地の高度利用を図ることで、生産を続けながら貯留確保も可能である。制度的、公的な仕組みを作ることによって農業を支えることにもなる。

○ 「猪名川モデル」を考える場合、いかにして二千年来の水田、緑の流域を我々自身で守っていくのか、という点が重要である。整備計画で最も重要視されているのは治水の確保のように思うが、治水のためにも土地利用を考えていく必要がある。

○ 「猪名川モデル」の中で河川の周辺の問題も出すのであれば、開発区域や水田、畑、樹林などの取り扱いについても考える必要がある。

○ 猪名川の河川敷の中での高水敷の面積、その内の運動公園の占める割合を教えてほしい。また、各市町の都市公園の内、河川内の公園の割合、さらにその中で運動公園の占める割合を教えてほしい。それから、河川敷における運動公園の意義とはいったいどういうところにあるのかについても教えてほしい。

○ 次回は、「川と人との関わり」について議論されると理解しているので、その時に説明したい。(河川管理者)

○ 水辺の生物について河川管理者からの説明が少なかった。猪名川は、長期的に見ると良くなったと言われているが、この10年程度で見ると少しずつ悪くなっている。魚種の中でも減っているものと増えているものがはっきりしている。非常に減っていて、手を打たないと本当にいなくなると思うのがタナゴ類である。

○ 多様な種を保存することを考えるのであれば、猪名川本流だけでなく、関連する支流なども含めて考える必要がある。

○ 鮎の遡上など、生物が行き来するためにはある程度の水量が必要である。箕面川は途中で枯れるため、鮎が遡上できなくなっている。河川の物理的構造に少し手を加えることで水量の少なさを補えないかと考えている。

○ たくさんの魚種が海から行き来できるルートの確保、これを「猪名川モデル」にしたい。

○ タナゴは砂泥底に生息する二枚貝に産卵する。河川整備の際には、砂泥が堆積しないよう砂泥底を無くしており、これによって二枚貝が減っていることがタナゴの減少の一因となっている。

○ 海から上流までつないでほしいと言ったが、これまで、海と川、川と用水路、用水路と田、田とため池といった河川周辺の水域ネットワークも潰されてきている。

○ 堤防の植生に外来種が増えてきている。繁殖力の強さも原因だろうが、堤防の環境自体が外来種に適したものに変わってきているのではないか。川の環境も同様のことが言えるのであれば、ここまで日本の環境が変わってしまっていいのか、を問い直す必要があるのではないか。そういうことを検討する会であって欲しい。

○ 外来種であるセイタカアワダチソウが増加したときに、「放っておけ。しばらくすれば減少する」と言った人がいた。そういう自然の摂理もあるようだ。(部会長)

○ 猪名川の流域は人間も「外来種」が増えている。環境を動かない、一定のものだと考えず、動いて行くものだと考える必要がある。動いている状態が自分達にとって快適でない方向へ向かっているときに手をさしのべるぐらいのことしかできない。

○ 何が快適でないかは流域で考える必要があるが、一つの答えを出すのではなく、それを議論するプロセスが重要である。

○ 破壊とは、環境が元へ戻ろうとするポテンシャルをなくすことである。ただし、こういう環境をつくろう、ということは開発になる。

5.次回の部会について

○ 米山部会長より、予定されている第5回、第6回部会の開催日が近接しているので、第6回の開催予定日である10月9日に統合し、会議時間を2時間より延長して開催してはどうかと提案があり、了承された。

○ また、次回部会を目途として「猪名川モデル」の箇条書き程度のものを作りたいとの提案があった。

5.一般傍聴者からの意見聴取

(一般からの発言)

○ 阪神高速の池田線延伸部の近くに居住しているが、川の中に2、3本橋脚が建てられ、高速道路のために長年親しんできた川をずたずたにされてしまった。この2、30年の間に猪名川でこれだけひどく傷つけられた所はないと思う。生態系も何もない。

○ 20年前に、川西市、阪神高速道路公団、旧建設省と我々の団体の4者で協定を結び、多自然を考えた工事をしてくれと要望してきたが、中途半端な対応になっている。皆さんが理想とされるような工事は実現していない。平成11年に川西の嵐山計画を作成し、当時の所長と確認書を結び、パースも作ったが、一向に協議に入っていただけない。この10月にさらにその延長線上での工事が実施されようとしており、非常に困っている。

○ なぜ地元の協定まで結んだ団体に何の呼びかけもせず、このような流域委員会や部会を開くのか。

○ 国土交通省や猪名川工事事務所は、流域委員会やこの部会の意見を本当に吸い上げる意思があるのか。

○ 部会長はこのような実状だということを、委員会にぜひ訴えて頂きたい。

○ 以前から流域住民から意見を吸い上げる機会を設ける必要があると思っていた。運営会議でも伝えることにしたい。(部会長)

○ 国土交通省は「住民の意見を聴きたい」と言い、我々は「聴かせたい」と思っているので、強力にそれを推進する、例えば「流域協議会」を結成することも検討頂けたらと思う。

○ この地区では全国で唯一の環境保全ということで協定を結んでおり、これに基づいていろいろな約束をしてきているが、履行されない。川を守るためには学問的な議論も必要だが、旧態依然の会議になっているのではないかとの危惧がある。国土交通省にはこの機会に一番大切な抜本的な部分で住民の意見を反映してほしい。

○ 第1回部会での質問(参考資料1の3ページ目参照)に対して、資料や返答がまだ出ていない。そのことを忘れないでほしい。

(委員からの発言)

○ 猪名川に関わる市民の意見をいかにして反映させていくかは大きな課題だと思っている。その中で、猪名川に関わる市民団体としてどのような団体、グループが活動しているのか、河川管理者や庶務で把握している情報を出してほしい。

以 上

 

注:速報は、会議の概要をできるだけ早くお伝えするものであり、随時修正される可能性があります。最新の速報はHPに掲載いたします。


 

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