第3回六甲山系グリーンベルト 森づくり講習会 要旨
  参加団体
  
  【森の世話人】 計21団体46名
  (市民団体)
  NPO法人 黄河の森緑化ネットワーク、兵庫県勤労者山岳連盟、とびまつ森の会、六甲ジョウビタキの会、夙川ボーイスカウト育成会、金鳥山自然環境保護・育山協議会、シニア自然大学研究部環境科、ほくらぐるーぷ(山林ボランティア)、ブナを植える会、兵庫県山岳連盟、NPO法人ウィズネイチャー(計11団体、登録順)
  (企業)
  株式会社 好日山荘、住友ゴム工業 株式会社、株式会社 ノエビア、東亜バルブエンジニアリング 株式会社、一般社団法人 こども環境フォーラム、清水建設 株式会社、アシックス労働組合・株式会社 アシックス、株式会社 新井組、コベルコシステム 株式会社、トヨタ部品兵庫共販 株式会社(計10団体、登録順)
    【その他】
  兵庫県森林組合連合会、NPO法人兵庫県砂防ボランティア協会
  
  
  要旨
1:開会挨拶
  六甲砂防事務所岡本事務所長より、講習会の趣旨・意義をふまえた挨拶がありました。
2:講習@ 六甲山系GB整備事業について
  岡本事務所長より、日本の国土の特徴や六甲山の成り立ちについての説明の他、阪神淡路大震災で発生した土砂災害や、その対策として始まった六甲山系グリーンベルト整備事業についての説明がありました。
  (主な内容)
  
-  日本周辺に大陸プレートがひしめき合い、プレート境界に沿って震源が存在する。 
- 	プレート運動による東西方向の圧縮をうけ、上昇して六甲山が、沈下して大阪湾が形成された。
- 	急峻な地形のため、六甲山を流れる芦屋川や住吉川などの河川は急勾配である。
- 	六甲山の地質のほとんどは花崗岩。脆弱で破砕された岩盤である。 
- 	阪神淡路大震災で崩壊した箇所は770箇所あり、雨で崩壊が拡大したところは約2000箇所にのぼった。阪神淡路大震災を契機に六甲山系GB整備事業が始まった。 
- 	人家周辺は土木構造物による施設整備を行っている。そうでないところでは、森林の機能を最大限に活かす樹林整備を行っている。
- 	35箇所、約40団体の市民団体や企業が、六甲山系GB整備事業に携わって下草刈りや伐採に従事している。安全で楽しく、あまり欲張らず長く活動を継続して欲しい。 
- 	植物の観察や環境教室、山遊び体験を企画している団体もある。
- 	どんぐりを拾い、苗木を育て、植樹するプログラムを小学校で実施している。昨年度は8校で実施した。
- 	今までより高性能の雨量レーダー(X-bandレーダー)が三大都市圏に整備された。
- 	「川の防災情報」のサイトでは携帯電話からレーダー雨量を見ることができる。
- 	砂防えん堤は、土砂が堆積しても、河床勾配を緩和し、河道侵食や崩壊を防ぐ効果が期待される。ただし、民家が近くにあり、土石流の発生する恐れのある場所では堆積した土砂を掘削する場合がある。
  
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    | 講習の様子(1) | 講習の様子(2) | 
3:講習A 森づくりの基本的な活動と安全対策について
  事務局より、森づくりの基本的な活動と安全対策についての説明を行いました。
  (主な内容)
  	  - 知識があるにもかかわらず、黙認して事故が生じると注意義務(安全配慮義務)違反となる可能性がある。 
- 	天候の事前確認が大事。気象庁のホームページでは雷の発生も予報している。 
- 	六甲砂防事務所のホームページでは六甲山34箇所の降水量を公開している。
- 	頭上作業時はヘルメットを着用すること。着用しないと重大事故の恐れがある。
- 	簡易なマダニ対策として、ズボンの裾を靴下の中に入れたり、裾への防虫スプレーの吹きつけも効果的。 
- 	道具はそれぞれの用途にあった使い方が大事。鋸や下草刈り用の鎌で枝をたたく等、誤った使い方をする人を目にする。 
- 	造林鎌は刃先を下にして運搬する。杖のように持つと刃で指を切る恐れがある。
- 	これからの時期、スズメバチが多くなるので注意が必要。スズメバチに威嚇された際には落ち着いて離れることが大事。あわてると捻挫等の事故が起きやすい。 
- 	伐採する樹木は活動地によって異なるのでハンドブックには記載していない。登録時に作成した森づくり計画書の1ページ目を参考にしてほしい。
- 	活動地でナラ枯れを発見した場合、事務局へ連絡をお願いしたい。登山道等、活動地外で発見した場合には県の森林整備事務所に連絡。 
- 	伐採した樹木は、その日のうちに整理整頓する。
  
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    | 講習の様子(3) | 講習の様子(4) | 
  
  4:講演「森づくりのために知っておきたい、六甲の森林の成り立ちと種多様性」
  六甲山の植物を研究している兵庫県立大学の栃本さんより、六甲山の生物多様性や植生についての講演が行われました。
  (主な内容)
  	  
    -  六甲山では、海抜750m以下が照葉樹林、750m以上が夏緑樹林の潜在分布域。 
- 	照葉樹林は冬でも光沢のある葉をつけている木から構成され、代表的な木はツバキやクスノキ。社寺林等として成立し、典型的な森の外観は、カリフラワーのようにモコモコとしている。
- 	夏緑樹林は冬に葉を落とす木から構成され、代表的な木はブナ。氷ノ山には立派なブナ林が残っている。六甲山でブナの分布と生育状況について調査したところ、130本がみつかり、そのほとんどが750m以上の地域に分布していた。 
- 	江戸時代からの六甲山の姿摩耶山の天上寺や再度山の太龍寺のまわりに照葉樹が残るだけで、山麓から山頂部までの大部分は、伐採や山火事が原因で禿山だった。現在は、アカマツ林やコナラ林などの二次林が多い。緑化に使われたニセアカシアやオオバヤシャブシなどの外来種も広がっている。
- 	六甲山の植生は、照葉樹林→禿山→アカマツ、コナラ林→照葉二次林に変遷している。 
- 	1974年は六甲山の大部分をアカマツ林が占めていたが、2004年はアカマツ林が激減し、コナラ林が増大している。アラカシ群落も山麓部を中心に拡大している。 
- 	六甲山は6つの系統(山陽系、中国山地系、北方系、紀伊山地系、南紀系及び港系)が交わることや、二つの植生帯が存在するため、六甲山は多様性が高く、約2000種類の植物が生育する。 
- 	アラカシ等の照葉二次林では、原生林で見られる植物はなく、明るい環境を好む植物も少ないので、多様性に乏しい。
- 	樹幹から落ちる雨粒は大粒でエネルギーが大きいため、直接的な侵食が生じる。地表面が叩かれ、地表面が固まると浸透能が低下し、地表流が発生する。林床植生や落葉による被覆率が大きいと土壌は流亡しにくい。
- 	間伐や常緑樹を伐採して林床植生を回復したり、土留めを行うことで、侵食・流亡を抑制できる。
- 	温暖化がすすむと、照葉樹林化が進み、明るいところを好む植物が少なくなり、多様性が低下すると懸念される。
- 	ササやツルが繁殖すると、植物の種類が少なくなり、見た目も悪い。二次林は積極的に手をいれる必要がある。
- 	二次林に入ってくる常緑樹を伐採することで明るい森が維持され、生物多様性が維持される。常緑樹を伐採しても4年も経過すると、再び常緑樹が増えてくる。
- 	「ツツジの咲く森」「オオムラサキのすむ森」のように目標とする森林像を設定することが大切。目標像を共有することで、必要以上に木を切り過ぎたりするなどの参加者の暴走に歯止めがかかる。
- 	植樹は森づくりのスタート地点、保育活動が大事。
- 	植樹には在来種を用い、園芸種は使用しない。地域によって遺伝情報が異なるため、在来種でも六甲山由来の個体を用いる方がよい。苗木を育てる場合、複数の木から種をとるのが、遺伝的多様性保全の視点から好ましい。
- 	植栽地に侵入する周辺の植物を残して森を作っていくことが望ましい。残す種は目標林によって異なる。
- 	見た目のよさや、植物の生育場所を確保するため、伐採木のかさをへらす努力が必要。広葉樹は幹や枝が曲がっているので、玉切り、枝落としを丁寧に行い、小さくまとめる。
- 	景観の変化、苗木の生長、種数の増加、花をつける木に着目すると、森林整備による効果を実感できる。
- 	虫を誘引するために花は咲く。虫がいない暗い森では花を咲かせない植物が多い。 
- 	動植物の名前を知ると、それまで見えていた世界が異なって見える。
- 	デジカメが普及し、写真が身近になった。写真撮影も森づくりの楽しみのひとつ。
- 	植物を調べるのに参考になるHPは六甲砂防事務所の「六甲山電子植生図鑑」。他にも、「神戸・六甲山系の森林」等があるので、参考にしてほしい。
  
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    | 栃本先生 | スライドを用いた講演の様子 | 
  
  5:意見交換会
  参加者の体験を共有することや、各団体間の交流を深めることを狙いとした意見交換会を行いました。参加者は3つのグループ(市民団体×2、企業×1)に分かれ、森の世話人以外での活動も含め、活発に意見を出していました。 
  (意見交換会のテーマ)
		
    - テーマ1:ヒヤリとした体験、ハッとした体験
- テーマ2:参加者に好評だった活動、そうでなかった活動
- テーマ3:参加者を集めるために工夫している点、困っている点
テーマ1では、大きな事故には至らなかったものの、森づくり活動時にヒヤリとした体験が報告され、この体験をもとに、より安全に気を付けて活動するようになったとの声が聞かれました。進行役から「報告されたヒヤリハット体験は他人事ではなく、自分たちの団体でも生じる可能性があることを念頭に、より安全な活動を続けてほしい」、「ヒヤリハットを起こさないための注意点をハンドブックに記載しているので、再度、目を通してほしい」と参加者に伝えました。 
       テーマ2、テーマ3では団体独自の活動や苦労談が報告され、今後の活動の参考となる内容となりました。   
 
以下は各テーマで出された主な意見です。
      
	  ★テーマ1:ヒヤリとした体験、ハッとした体験
          転倒したヒヤリハット(計11件)
	  
	    - 	ネザサ刈りの最中に転倒し、ネザサの鋭利な切り口で手を刺した。(顔に刺さりかけた等多数) 
 ⇒鋭利な切り口にならないよう、鋸刃がついた鎌や鋸を使用する。
 ⇒鋭利な切り口を(固いもので)つぶして刺さらないようにする。
- 	(濡れた落葉の)斜面で転倒。軽く捻挫した。
 ⇒スパイク付きの長靴を履く。
- 	伐採した木を乱雑に放置していたため、つまずいて転倒した。 
 ⇒伐採した木や枝を丁寧に集積するようにした。
- 	事前の足場確認が不十分だったため、伐採中に足を踏み外し、5m転落した。
 ⇒足場確保等の安全確認を複数で行うようにした。
- 	道具や苗木を活動地まで運搬する際に、一輪車を利用したが、途中の斜面で人ごと一輪車が落ちた。
- 	切り株につまずいた際に、オオスズメバチを手で押さえてしまい、刺された。
    刃物によるヒヤリハット(計5件)
	  
	    - 	草刈中に鎌で指を切った。 
 ⇒事前に道具の正しい使い方を説明する。
 ⇒軍手ではなく皮手袋を使用する。
 ⇒自分で鎌を砥ぐ。切れ具合を自覚でき、慎重に取り扱うようになる。切れ味がよければ、力をいれる必要がないため、怪我をしにくい。
- 	軍手をはめたまま鉈を使用し、手が滑って鉈が飛んだ。
 ⇒素手か皮手袋を使用するようにした。
- 	刃を上にして地面に置いていたので危険だった。 
 ⇒刃を上向きに置かないのはもちろんのこと、踏む恐れのある場所に道具を置かない。
- 	鎌を引きすぎて靴まで切ってしまった。 
 ⇒鎌をよく切れる状態にしておく。切れないから力が入り、鎌を引きすぎてしまう。
    立木の伐採時のヒヤリハット(計5件)
	  
	    - 	伐木作業時に想定外の方向(自分のいる方向)に倒れてきた。
 ⇒切る手順を事前に確認する。
 ⇒大事故につながる大径木の処理は無理をせず、六甲砂防事務所に依頼する。
 ⇒ワイヤーロープや手動のウインチを使用して、作業者の方向に倒れないようにする。
 ⇒何かあった時(下敷き等)のことを考え、一人では行動しない。
- 	伐木作業時、目の前の作業に集中していて、伐倒方向で作業している人の存在に気が付かなかった。
 ⇒作業にのめりこまないように注意する。
- 	伐倒時に周囲に注意を喚起しない(掛け声をかけない)人がいて危険だった。 
 ⇒声かけを徹底する。
    上下作業を実施したことによるヒヤリハット(計4件)
	  
	    - 	斜面の上下で作業した際に、上で作業する人が石を落とし、その石が下で作業する人に当たった。 
 ⇒上下作業の禁止。声をかける。
- 	斜面方向に倒した竹の枝払い中に、竹が落下して下側の作業者にあたりかけた。
 ⇒斜面方向に並んで作業しない。
- 	斜面の狭い範囲、上下左右に4グループが入って演習や作業を行ったため、危険を感じた。
    虫によるヒヤリハット(計4件)
	  
	    - 	下草刈りをしていて虫(スズメバチ等)に刺された。 
 ⇒ポイズンリムーバーを携帯する。
 ⇒スズメバチを誘引するハチトラップ(ペットボトルを改造し、中に酒、酢、砂糖水を入れる)を設置したところ、多くのスズメバチを捕獲することができ、活動時にハチを見かけることがなくなった。
 ⇒虫除けネットの着用や蚊取り線香を携帯する。
    作業していない人の接近によるヒヤリハット(計3件)
	  
	    - 	周囲に注意を払って刈払機を使用しているが、不用意に近づいてくる人がいる。
 ⇒刈払機を使用していない人にも刈払機の危険性を周知する。
 ⇒刈払機の音で声が届かないため、笛で呼びかける。
- 	登山道での作業時に、周囲に監視役がいなかったため、作業者と登山者が接触しかかった。
 ⇒登山道で作業をするときには、監視役を設けるか、いつも以上に周囲に注意するようにした。
    枝が落下したヒヤリハット(計2件)
	  
	    - 	つるを除去するため、つるを強く引っ張ったところ、巻きついている枝ごと落ちてきた。
 ⇒頭上作業ではヘルメットを着用する。
- 	竹を伐倒した際、竹が古木の枝にあたり、大きな枝が落下した。
    その他のヒヤリハット
	  
	    - 	急いで山をのぼった際、ペースについて来られない人がおり、自分のペースで、一人で来てもらうようにしたが、持病を持ち、途中で倒れる危険があったことを後で知った。 
 ⇒余裕を持って行動し、事故が起きてもすぐに対応できるようにする。
- 	刈払機を使用した草刈りで、周辺監視役をしていた際に、胸ポケットにいれていた眼鏡を落とし、刈払機で破損した。 
 ⇒メガネコードをつけるなど、事前に必要な持物をチェックする。
- 	山火事を目の当たりにした。わずかな火でも山火事になる。
 ⇒火の始末をする。火を森に持ち込まない。
★テーマ2:参加者に好評だった活動、そうでなかった活動
      
    ○:好評だった活動  ×:好評でなかった活動
  
 
          ○ 植生調査
      
        - 	活動地内で約100種類の植物が生育していることが明らかになった。植物の名前を教えると喜んでもらえた。
    ○ レクリエーション
      
        - 	小学校を対象にした親子自然木工教室を開催した。
- 	落ち葉を使ったネイチャーゲームを実施した。 
    ○ 森づくり活動そのもの
      
          ○ 間伐材の再利用
	  
	    - 	間伐した木や、切ったつるを利用して、子供たちの隠れ家をつくった。
- 	間伐材を再利用して、活動地内にベンチとテーブルを設置(注:設置には許可申請手続きが必要)。休憩・食事のスペースが確保できた。
    × アクセス
	  
	  ★テーマ3:参加者を集めるために工夫している点、困っている点
          市民団体
      
        - 森づくり作業とハイキングをセットで企画した。 
- 	下山後に昼食会を企画した。 
- 	バスをチャーターしてトイレを確保した。時間を決めてトイレに移動するようにした。
- 	口込みだけでなく、フリーペーパーを活用してイベントを告知した。 
- 	ホームページやブログを使って一般市民に参加を呼びかけることを予定している。 
    企 業
  
    - 	活動に興味がありそうな社員に個別によびかけている。 
- 	人事担当者から新入社員に活動を紹介している。
- 	社内教育の一環で、新入社員は強制的に参加している。
- 	社長やCSR担当役員等が参加できる日程にして、経営層を活動に巻き込んでいる。
- 	イントラネットで活動状況を紹介したり、参加を呼びかけている。
-  	OB会等で宣伝を行い、OBに参加してもらっている。 
6:連絡事項
    -  貸し出し道具に関して。
      
        - 活動の直前ではなく、1週間前までに希望道具を事務局に連絡してほしい。
-  汚れた状態(泥の付着等)で返却される場合があるが、道具は汚れを落として返却してほしい。
 
- どんぐりキャラクターのロゴマークを作成した。事務局に申請することで使用できる。 
- 「森づくり」と明記した“のぼり”の配布を六甲砂防事務所で検討している。 
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