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大和川の水環境

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冬のテーマ:アユの子は大阪湾で育ちます
「大阪湾のなぎさ環境」 大阪市立大学大学院教授 矢持進氏

環境水域工学が専門で、川の生態系を復元するための研究を行っておられる矢持先生に、アユが幼少期を過ごす「干潟や浅場」と「河口域」の現状と問題点を大阪湾と大和川に絞りお話頂きました。

河川・海洋生態系の関連を重視した水族と水域環境の保全・再生

矢持先生の発表の様子
大美氏の発表の様子

(大阪湾について)

  • 大阪湾の海岸は埋め立てられ、殆どが人工海岸で大阪府の海岸線の総延長は大阪駅から浜松くらいと同じ距離で約260キロ程あります。大阪湾では消波ブロックか垂直護岸が卓越しになり、なぎさ、浜が無くなり、東京よりも自然海岸が少なく全国で一番「浜」や「なぎさ」が少ない海域です。
  • 水環境においては赤潮の元になる窒素とリンは、私が大阪湾を観測し始めた1976年頃と比べれば少なく、水はきれいになってきました。岸壁の内側は過栄養ですが、南部ではノリやワカメ等の藻類養殖にとって大阪湾は栄養が足りない、または適量より少ない状況です。下水処理やいろんな努力で水質は改善されており、今は汚い大阪湾というイメージではなくなってきています。
  • 漁獲量に関して、全国的な傾向ですが昔に比べ下降しており、水質劣化に加えて埋め立てにより浅場が減少したことなどにより貝類が減少し、漁業に影響を与えたと思っています。また、水質の中でも夏に海底の水が酸欠状態を起していることも影響しています。また、70年代後半に甲殻類では病気も起こっており、いろんな複合的な要因が重なり漁獲量は減少してきたのだと思います。そのためもう一回浜を取り戻そうといろんな取り組みが行われています。

(再生への取り組み事例)

阪南2区干潟現地実験場
  • 大阪府や国交省では様々なアプローチをしていますが、2000年に岸和田沖の阪南2区に干潟現地実験場を作りました。しかし6年間何もせず放置すると浜がなくなりました。自然再生は造るだけでは駄目で都市の自然は、人間がきちんと手入れをしないと再生しないのです。2006年に造った阪南2区干潟創造実験場では、中仕切り堤を作り浜にヨシを植え、砂浜の地中には雨水を貯めるような仕組みをつくりました。結果、約4年経ってもヨシ原は拡大し、「ハクセンシオマネキ」(カニ)やガザミがたくさん分布しています。

(干潟の効果について)

  • 南部では栄養が足りない部分もありますが、全体的に大阪湾は富栄養であるため生物が生活できる場を造れば、その成長は早いです。干潟の役割は色々あり、例えば、景観・散歩、観光資源、文化的遺産、漁業、潮干狩り、生物の生息と多様性、環境教育、浄化能力等最近ではこれらを生態系サービスと呼び、私たちは干潟あるいは自然環境から生態系サービスを受けていると言われるようになっています。
  • 干潟効果の一例として、大和川河口の北側にある「大阪南港野鳥園」を紹介します。四季に渡り干潟の浄化機能を調べてみました。すると野鳥園の干潟は1日1平方メートルで0.1gの窒素をきれいにし、海藻・ゴカイやエビ、野鳥などを経ての食物連鎖がみられました。
  • 大阪南港野鳥園
    計算すると野鳥園は4.4haあるため1日に4.3キロの窒素を浄化していることになります。同じ浄化機能を持つ下水処理場を作った場合、標準の活性汚泥法と高度処理機能を持つ施設なら建設費用で9億7千万円、1年間のメンテナンス費用で1千万くらいが必要です。干潟やなぎさの場合、人間によるメンテナンスはある程度必要ですが人件費や電気代は要りません。人間は1日約12gの窒素を自然に出すため、野鳥園の干潟効果は1日360人分の窒素、汚濁物質を浄化する能力があることがわかります。しかも鳥の観察が楽しめ、生き物の生息環境を形成するので干潟の生態系サービスはかなり高いと思います。

(大和川の干潟について)

堺浜の完成イメージ
  • 最近、大和川の河口域が「堺浜」という名称に変わりました。将来は堺浜を浜となぎさが美しい環境にしたいと思いますが、大和川は、出水時にゴミがたくさん流れるため浅くすればゴミが溜る問題があります。堺浜には水深16-18mの場所があり、その海水を調査したところ採水した水は空気に触れたとたんに透明な色が濁り、硫黄の臭いがしました。水質の問題は需要で、これを改善しない限りなかなか再生は難しい状況です。

(大和川のアユについて)

  • 大和川の場合、最近は水質も改善され昔に比べて随分きれいになってきました。しかし、アユが海から川に遡上する時期を淀川と比べると大和川の水質レベルが少し高いため、淀川には多くの稚アユが遡上しますが大和川は少ないのが現状です。しかし、アユが中流に上ってしまった夏頃は水質が変わらないため、遡上時期のしかも河口域の水質が問題ではないかと考えています。
  • 大和川の水質がよくなり始め、今まで採集されなかった体長20〜30ミリのアユが河口で獲れ始めました。そこでアユの遡上について大学院の学生諸君と一緒に2007年から8年に調査しました。アユは水温が20℃を切り、雨が降った後2週間後にふ化するといわれており、2007年11月から11月15日くらいに1日に30万尾アユが降下しており、トータルで300万尾のアユの赤ちゃんが海へ下っている事が初めて分かりました。同じ調査を2008年も行い、前年同様水温が下がり雨も降った後に調査しましたがその年は全然降下するアユが採取できませんでした。アユの降下量はもともと不安定ですが、その時、やはり大和川の産卵環境は不安定で人間の手助けがないと安定しないことが分かりました。
  • 蛍光X線発光分析によるアユ耳石のストロンチウム分布
    遡上するアユが天然か放流されたものかは耳石のストロンチウムで調べます。ストロンチウムは海と川で100倍濃度が違い、海が高く海にいる時間が多いと耳石のストロンチウム濃度が高くなります。蛍光X線分光分析の結果では、淡水で飼っている時間が長い人工産放流魚ではストロンチウム濃度が低く、この方法で放流魚と天然魚を見分けます。2010年、8千尾ほど養殖アユを放流したので中流の堰で獲ったアユの耳石のストロンチウムを調べ、ピーターセン法で大和川に上がってきたアユを推定すると約10000尾は天然ではないかと思いますが誤差もあるのでさらに研究を続ける必要があります。
  • また、どのくらいの濃度でアユの半数が死亡するかも調査しました。遊離アンモニア濃度を調べると大和川の水1リットルに0.24mgの遊離アンモニアがあると半分が死亡することが判り、水産用水基準の考え方に順じ、0.24mgの約1/10の濃度、すなわち、0.024mg/L以下がアユのために守るべき濃度でそれを基準に大和川河口を測定してみました。すると、西除川との合流点、河口域の特に左岸側で濃度が基準値を超えて高いことがわかりました。すぐに死亡する濃度ではありませんが、改善が必要な状況であると思います。

(大和川への夢)

    天然仔アユが遡上する河口の復活
  • 最後に、大和川をアユの友釣りができるような川にすることが夢ですが、まだまだ遡上数が少ないので、みなさんにはその事情を考慮頂いて、100万尾遡上するまではあまり獲らないようにお願いしたいと思います。

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