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大和川の水環境

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春のテーマ:海で成長した稚アユは川へのぼります
「河川干潟環境の修復技術(石炭灰造粒物)」
広島大学大学院准教授 日比野忠史氏

石炭灰を造粒して作製されたハイビーズを利用したヘドロを浄化する技術を開発された日比野先生から、この技術を用いて広島市を流れる一級河川太田川と広島湾奥に堆積したヘドロ(有機泥)の浄化のための取り組み、河口域でのアサリ場の復活事業のようすなど健全な河口域を取り戻す活動についてお話頂きました。
春のテーマ日比野先生の発表の様子の写真
春のテーマ 日比野先生の発表の様子

(太田川と有機泥の特性について)

  • 広島市は太田川の河口に発達したデルタ地帯に広がる都市で、6つの派川が広島湾へ流れています。下流域は埋め立てが進んだため、河口では水深が急激に深くなり,有機泥がヘドロ状態で堆積しています。河口域に堆積したヘドロは広島湾のみならず、市内派川にも影響を及ぼしています。広島市では「泳げ、遊べる川づくり」という「水の都」を目指し、行政、民間が頑張っていますが、ヘドロが水辺の親水性を拒んでいます。このヘドロ問題をなんとか解決しようという研究を行っています。
  • 有機泥は起源や堆積状態により時には善い働き、時には悪い働きをします。広島湾の奥海域〜河口域には有機物を多量に含み、含水量が高い泥が堆積しています。植物起源の有機泥はそう悪さはしませんが、生活起源、特に油脂分をよく含む有機泥は景観や生物に問題を与える事が分かりました。
  • 河川に輸送される有機泥の特性
    太田川派川のひとつである天満川で、川への流入物とその動きを調査しました。市内デルタでは潮汐変動が4mあり,満潮時は多量の有機泥が河川に遡上するために、天満川の上流6.0km地点においても河岸干潟には有機泥がヘドロとして溜まっています。河口には下水の放流渠があり、合流式の下水道では大雨が降ると未処理の下水が河川に放流されます。生活排水を含む汚水,汚泥が、川の中に放出されたことによる河川環境への影響、特に、有機泥の輸送と溜まり方の特性を調査しました。
  • 上げ潮期に遡上する河川水を調査した結果、濁質は水位の上がり始めに遡上し、上流に輸送され河岸に溜まること、油脂類等は海水で浮上し易く護岸に汚れを付着させることがわかりました。汚れた護岸に付着した汚れを分析すると、油脂分が含有されており、油脂分がなければ、護岸が汚れることが少なくなります。下水等が整備された都市においても生活排水が「いつ」「どこで」「どのように出て」「どこに溜まるのか」を知ることで、整備対象と浄化方法をできることがわかりました。
  • 天満川河岸に堆積する有機泥の特性
    天満川の調査結果では、放水渠から出てきた有機物に含まれる油脂物を「N-ヘキサン抽出物質」で表わしていますが、抽出物質を1500mg/kg程度含む有機泥が放流渠付近に溜まり、上流に行っても1000mg/kg程度の有機泥が堆積する場があり、放流渠の近くだけでなく、数km上流にも高い濃度で広がっていることがわかりました。未処理下水には10000mg/kgのオーダーで含まれており、上流にも未処理下水の10分の1程度の油脂物を含む有機泥が輸送されていることもわかりました。さらに、放出間近な未処理下水にはアンモニア類を有機物中の油脂物を分の2割くらい含んでいることがわかっています。この汚泥の浄化を行う材料として「石炭灰造粒物」という環境修復材を使い、ヘドロに造粒物を入れ、環境を改善する取り組みを行っています。

(石炭灰造粒物、Hiビーズの特性)

  • 「石炭灰造粒物」は非常に藻が付き易い特性を持っています。石炭灰は産業廃棄物という概念を持つ人が多いですが、石炭は元々が植物でそれが固まり出来たものであり、燃やすことによって酸素が供給する有要な材料なのです。石炭灰は主に「SiO2」(シリカ)で構成されており、その他にアルミニウム、鉄、カルシウム、そして微量元素が含まれています。石炭灰造粒物は、石炭灰にセメントを入れて粒状化させて作ります。セメントは、カルシウムが主原料であり、石炭灰にカルシウムが入ることでヘドロとよい相性を産み出します。このため石炭灰造粒物には、油脂を含んだ下水等に含まれるまだ使用できる有機物を下水の中から取出し、ヘドロの浄化を促進する能力があります。また、安全性の点では微量重金属の含有量は水銀、カドミウム、鉛等が含まれていますが、含有量は自然界にある土と比べても数ケタ以上少なく、石炭灰造粒物の組成は環境に対して全く問題がない利点があります。
  • 石炭灰造粒物の効果(藻類の付着)
    通常、有機物分解は好機条件下で酸素がないと分解が進みません。有機物は酸素を消費するため、海底層の貧酸素化を起こしますが、石炭灰造粒物は酸素が全くない海底付近のヘドロの中でも酸素を使わずヘドロを分解しています。正確にいうと「分解」ではなく有機物を「分離」つまり、有機物を溶かし出しており、これが生物の栄養となります。石炭灰造粒物の散布した場所にはアサリがよくつき、 ナマコ等の生き物やアマモ等の植物が育つなど栄養供給ができる、という現象が確認されました。

(取り組み事例1−湾奥海域の場合)

  • 石炭灰造粒物(Hiビーズ)で少し硬めの岩のようなものを作ると蠣や藻類の付着する効果が現れます。シリカを含んでいるので石炭灰造粒物には藻がたくさん付着し、貝や魚の餌がその場に形成されました。広島湾での実証実験事例ですが、広島湾の奥にある海田湾で200m×300mの範囲にHiビーズを撒くことにより底質改善をするとナマコやハゼ、カレイが出現し、撒いていない箇所との差が歴然であり、Hiビーズの散布で明らかによい環境が作られているという結果がでています。
  • この石炭灰造粒物のその他の能力として活性炭と同じ働きを持っています。流出した未処理下水の臭気をどれくらい取るのかを実験したところ、臭いの原因であるアンモニア類が殆どなくなり、硫化水素、硫化メチルや臭気成分までが取れ、未処理下水にも効果があることが確認できました。広島県には未処理下水が溜まる内湾があり、実際にこの湾域に流出した未処理下水に対しても非常によい効果があることも分かりました。

(取り組み事例2−河川の場合)

  • 太田川市内派川での事例ですが、護岸にヘドロが多く溜まっている箇所で石炭灰造粒物で作った浸透柱を泥の中に貫入した現地実験をしました。そこには砂層の上に50センチ程ヘドロが溜まっていましたが、ヘドロ層内に石炭灰造粒物を詰めて浸透柱を作ったことで浸透柱の中の流動性が高まり、酸素を含んだ水が潮汐に伴ってヘドロ内を行き来することで、堆積したヘドロが44ヶ月(3.6年)後にはなくなりました。広島市内には河岸干潟が多く、利用価値が高いのですが、ヘドロが堆積しているために都市のど真ん中の広い河川空間が利用されていません。広島市内では水際を利用したオープンカフェを実施しておりますが、カフェ前面の景観を改善するため、この技術を用いて現在干潟の改善を行っています。
  • 太田川河川事務所が施工した例ですが、施工当時はドロドロとしたヘドロ状態が施工後1年でヘドロがなくなり、対策を施したところは歩ける状況になりました。干潟や泥干潟を有効利用するため、ヘドロと石炭灰造粒物を混ぜると固まる特性を利用して遊歩道を構築しました。カニが穴を掘れないほど固まらないので普通の砂地盤と同じ特性を持った地盤改良材として利用できます。現在も泥干潟を有効利用するための新しい技術開発に取り組んでいます。
  • アサリ場の復活にも取り組んでいます。矢板が入り水の流れが全くなくなった河口干潟で、Hiビーズの溝層を作ったところ、地下水が動くようになりアサリが非常に多く湧いてきました。石炭灰造粒物を埋設した場所と埋設しない場所を比べると、「N-ヘキサン抽出物質」は1/10程度に減り、POCも減るという底質の改善効果も出ており、地下水の流れを創ることでアサリの成育によい環境が再生されたと言える結果がでています。
浸透性実証試験区域の概要
河岸に堆積したヘドロ対策
アサリ場の復活

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