建設業における 担い手確保・育成

インタビュー企画第1弾

建設業界のみなさま必見!女性採用と若手への魅力発信の実例紹介【松塚建設株式会社】

建設業では高齢化等によって、今後技能労働者が大量に離職することが見込まれています。将来にわたって社会資本の品質確保と適切な機能維持を図るためには、建設業の将来を担う若者の入職・定着を促して、人材を確保することが最重要課題となっています。奈良県宇陀市の松塚建設株式会社では、女性職員の採用と、学生への建設業の魅力発信を積極的に行っており、平成29年度近畿地方整備局研究発表会において、同社土木部課長補佐の今西裕昭さんが『建設業における若手人材の確保と育成』について発表し優秀賞を受賞されています。同社の取り組み成功の秘訣は何なのか、今西裕昭さんを中心に、土木部主任の北村尚弘さん、営業部係長の梶谷利明さん、4月に入社されたばかりの岡田真由さん、福西恵梨奈さんに詳しくお話を伺いました。

 

○松塚建設株式会社において、女性職員の採用と環境整備を積極的に行うことになったきっかけから教えて下さい。

 

今西裕昭(松塚建設株式会社土木部課長補佐。以下、今西):奈良県全体において若手の職員の採用環境が非常に厳しく、男性に絞っていたのでは、良い人材が確保出来ないということがきっかけです。今弊社が工事を施工中の奈良県五條市清水地区は、五條市街地から車で約40分という山間地で、ここまで来てくれる人を採用するのは困難だったという背景がありました。

 もう一つ、最近は女性が活躍されている現場が増えてきているという情報を見聞きするようになって、他社で出来るのであれば我が社でもできるのではないか、ということもありました。

 
○平成
29年度の近畿地方整備局研究発表会での発表で、2017年にお二人の女性を採用されたとありますが、地元の方だったのでしょうか?


梶谷利明(松塚建設株式会社営業部係長。以下、梶谷)
:奈良県内の他の業者さんでは、けんせつ小町ということを謳って女性の方が現場で活躍しておられるということをHPや新聞で見ました。当社としても「これは良いことだな」、「当社としても女性の活躍できる場を提供できたら良いな」ということになりまして、女性職員を採用いたしました。

 
 ○平成29年度の近畿地方整備局研究発表会での発表で、2017年にお二人の女性を採用されたとありますが、地元の方だったのでしょうか?


今西:
いいえ、二人とも奈良県外の出身でした。それぞれ普通科の卒業で、不動産と介護の仕事をしていましたが、縁の無い建設業に飛び込んで来てくれました。残念ながら奈良県在住の女性で建設業を目指す人はまだ少ない状況だと思います。

 

○お二方より以前に貴社において女性の方の採用実績はありましたか?

 

今西:いいえ、事務職を除いてありませんでした。当社にとって初めての出来事でした。

 

○初めて女性の方を採用するとなると、受け入れる側としても準備が必要だったのではないでしょうか?

 

梶谷:そうですね。女性用のトイレや休憩所の整備を行いました。あとは女性の方が気疲れしなくて済む環境を作ることを心がけました。女性職員を受け入れるにあたっては、会社全体で話し合い、調整をしましたね。

 

今西:環境整備について具体的に申し上げますと、休暇の取りやすさに繋がる方策を練りました。女性に限った話しではありませんが、家庭の事情でどうしても休みが必要な場合があります。それまでは2名で進めていた現場管理に技術者の補助として女性を1名加えることで、一人あたりの業務量が少なくしました。建設業界で見受けられる17時まで現場で働いてから夜に書類整理を行うといったことを減らすことが出来ました。

 

○実際に女性ならではの視点や考え方をお感じになったことがありますか?

 

今西:それまでは、現場において多少危険でも勝手な思い込みで「大丈夫だろう」という考えがありました。例えば急勾配な場所でも「頑張れば登れるだろう」というように。そのような時に、女性の視点で「ここは危ないんじゃないか」と言ってくれる様になりました。また現場が少し汚れてきた時にも「汚いんじゃないですか」と言ってくれたりして、周りの男性たちも気を付けるようになりました。安全面、衛生面において気付かされることが多くあるように感じます。

 

今西:それから、なんと言っても現場の雰囲気が違うということです。ベテランの職人さん達が朝から笑顔で挨拶したり、昼の休憩時にも女性職員とコミュニケーションを取っています。昔気質の職人さんの言葉遣いも変わりました。男はみんな女性にはやさしいということだと思います(笑)。

 

北村尚弘(松塚建設株式会社土木部主任。以下、北村):私は女性の方が、書類作成能力が長けていると感じています。よくメモを取っていますしね。

 
○逆に困った事や悩みはありますか?

 

北村:仕方がないことではありますが、木杭を打つ等の力を必要とする作業は難しい場合があります。

 

○なるほど、女性が男性と同じように力仕事をすることは難しいですが、女性が加わることで会社や現場の雰囲気が良くなり、安全面、衛生面でも環境改善に繋がったということが良く分かりました。

 

○次に「若者に魅せる仕事」に関する取り組みを始めたきっかけについて教えて下さい。

 

今西:弊社では2004年から地元の中学生や高校生を対象に職場体験授業の受入れを行っています。実際に測量を体験してもらったり、バックホーで土を取る様子を見てもらったり、子ども達に喜ばれるだろうということをやってみましたが、現在の建設業に若者が入職しない、離れて行ってしまうという状況を見ると、彼らにとって、それほど興味を引くものではなかったのではないかとの思いに至りました。そこで2017年からは、ドローンを利用して図面を作って施工するということを見てもらったり、レーザースキャンで子ども達の身長を測る体験をしてもらいました。それらには、大変な反響がありました。以前とは子ども達の興味が変わってきているのかな、と感じています。

 

梶谷:やはり若者が興味を持つような最先端技術等をアピールすれば、建設業のイメージも変えられるのではないでしょうか。

 

北村:スマートフォンを利用した作業効率化ができればPRに繋がるのではないかと思います。

 

今西:ちょうど今この現場事務所に2017年に採用した女性職員とは別の、昨年4月採用の若手女性職員2名がいます。話を聞かれますか?

 

○よろしいですか。ぜひお願いします。

 

~女性職員2名が着席~

 

○お忙しいところ申し訳ありません。自己紹介からお願いできないでしょうか。

 

岡田真由(松塚建設株式会社新規採用職員。以下、岡田):岡田と申します。職種は技術ですが、現場事務所では事務の仕事も行っています。現場に出た時は主に写真撮影を行っていますが測量も担当しています。

 

福西恵梨奈(松塚建設株式会社新規採用職員。以下、福西):福西です。私も同じように現場では写真を撮影して、現場事務所に戻ってからはその整理を行っています。

 

○お二人の入職のきっかけを教えて下さい。
 

岡田:私は「施工管理」という仕事だということを聞いて入りました。デスクワークより外に出る仕事を希望していたので、やってみたいなと思いました。体を動かす仕事を希望する女性も多いと思いますので、そのような方には、建設業はお薦めです。

 

福西:私は学生時代にデザインの勉強をしていました。ものづくりに関係する仕事に惹かれて希望しました。

 

○実際に働いてみて、建設業の職場はいかがですか?

 

岡田:周りの皆さんはとても優しく接してくれます。また、これまでの人生で建設工事に触れることはなかったので、知らないことが多く、日々いろいろな知識が増えていっている実感があります。街中でも「このユンボの型式見たことあるな」というように思うようになりました(笑)。

 

福西:一つの工事にたくさんの企業や人が携わっている、ということが分かるようになりました。

 

○もっとこうすれば建設業に女性の職員が増えるのではないか、ということはありますか?

 

岡田:今の現場は大丈夫ですが、遅い時間まで施工している現場に行くと大変になるかなと思います。あと、トイレの便座が冷たいのを何とかして欲しいです(笑)。

 

福西:なかなかサイズが合う作業服やヘルメットがありません。女性用作業服といえばピンクばかりです。女性用の品がもっと増えるべきだと思います。

 

○女性用の作業用品が少ないということは、今後の課題ですね。では、女性にとっての建設業界のお薦めポイントはありますか?

 

岡田:職人さんは皆さんとても優しい方ばかりです。イメージとは違いましたね。怖いとか怒鳴られるというイメージがありましたが、いろいろと丁寧に教えてもらっています。

 

福西:私も一緒です。優しい職人さんが多いと思います。

 

○今後こうしたいというものはありますか?

 

岡田:施工管理技士の資格を取りたいと思っています。

 

福西:資格に加えてCADを使いこなせるように勉強したいと思います。

 

○ありがとうございました。様々なお話しを伺いましたが、最後に男性先輩方に伺います。女性職員の採用と環境整備並びに若者に魅せる仕事について、今後の抱負をお聞かせ頂けないでしょうか。

 

今西:女性職員の採用と環境整備という点については、まだまだ珍しいものではありますが、今後はそれが当たり前になって欲しいなと思っています。例えば現場事務所を建てたら当然男女別のトイレがあるというように。女性を雇うからコストが増えるという時代ではないと思います。若者に魅せる仕事については、一言で言えば「イメージ転換」ですね。建設業に対する昔のイメージを変えていきたいと思っています。

 

北村:国土交通省では、新3K(給料、休日、希望)に取り組まれていますよね。国だけではなく、都道府県、市町村、民間の工事も含めて、そのような方向でいかないといけないと思っています。

 

○なるほど、貴重なご意見ありがとうございました。それでは、そろそろお時間ですので、松塚建設さんへのインタビューは以上とさせていただきます。今後も御社のご活躍を祈念しております。

 

[インタビューを終えてみて(編集後記)]

建設業界は今、50歳代・60歳代のベテラン技能労働者の方が多く、逆に10歳代・20歳代の若手は少ない状況にあります。技術と経験をお持ちの職人さんが多く活躍されていることは決して悪いことではありませんが、この業界の将来のことを考えた時、新たな担い手を確保することが喫緊の課題となっています。

この度、松塚建設株式会社さんにインタビューを行わせていただくことになったきっかけは、平成29年度近畿地方整備局研究発表会において、同社土木部今西裕昭さんが『建設業における若手人材の確保と育成』について発表されましたが、その取り組みを始めた動機は何だったのか、実際に取り組んでみてどのような感想をお持ちなのか等、他の企業の参考となることについて詳しく伺いたいと思ったことです。

同社が取り組まれた施策は大きく分けて二つありました。女性職員の採用と学生への建設業の魅力発信です。実際にお話を伺うと、それまで皆無だった女性を迎え入れるにあたっては、トイレや休憩室の整備等のためコストアップになるとの葛藤があったことが分かりました。しかし、社内で様々な検討を重ねた結果、長期的には絶対に会社にとってプラスになるとの考えに至ったと伺いました。同社のそのような考えがしっかりと社会へ旅立つ若者に伝わり、厳しい地理的状況にも関わらず見事2人の女性人材の確保に至ったのだと思います。また、同社によるドローン等を使った職業体験で建設業の楽しさを知った中高生たちは、きっと近い将来、業界の貴重な担い手をなってくれることを確信しました。これらの取り組みは、同じように若手の不足に悩む他の建設業者の皆さんにとって大いに参考になるのではないでしょうか。

年度末が迫った大変お忙しい時期に、わざわざお時間を取って下さった松塚建設株式会社の皆さんには、改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。(おわり)