野川は、奈良県南部の大峰山脈の山上ヶ岳に源を発し、紀伊半島中央部を南流し、大台ケ原を水源とする北山川と合流して熊野灘に注ぐ一級河川です。流域の面積は2,360km2で近畿で3番目に広く、河川の延長は183kmで近畿で一番の長さです。

熊野三山は熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の3つの神社の総称であり、全国にある熊野神社の総本社です。平安時代以降に行われた熊野詣においては「蟻の熊野詣」と呼ばれるほどのにぎわいを見せ、皇族・貴族を始め多くの人々が熊野三山を訪れ、当時の逸話は様々な形で現在にも伝えられています。熊野川は熊野本宮大社と河口の熊野速玉大社を舟で結ぶ主要な参詣道であり、本宮大社にたどり着いた参詣者の多くはここから舟で熊野川を下り、新宮の速玉大社に参詣しました。このため、熊野川は「川の参詣道」として世界遺産に登録されています。 

日本有数の多雨地域を抱える熊野川流域においては、これまで数々の水害が発生しています。中でも特筆すべき災害としてあげられるのが、明治22年8月に発生した十津川大水害です。紀伊半島南部を襲った大雨により、熊野川流域では十津川村を中心に大規模な山腹崩壊が1000箇所以上で発生し、その土砂は谷を埋め多くの堰止め湖が出現しました。堰止め湖からの流出により十津川村をはじめ下流域にも大きな被害が発生し、被害は死者175名、家屋・全半壊1541戸にもおよび、この洪水で熊野川の中洲にあった熊野本宮大社が流失し、残った社が現在の場所に移築されました。近年には昭和34年の伊勢湾台風をはじめ、昭和50年、57年、平成2年、平成6年、平成9年、平成13年、平成15年、平成16年にも洪水が発生しており、支川の沿川や支川との合流点を中心に浸水被害が発生しています。熊野川の治水対策としては、本川の築堤および支川対策が主に実施されており、現在においては、大きな浸水被害は少なくなっています。