九頭竜川流域誌


3.2 植物地理区分

 九頭竜川流域をいくつかの植物区に分け、その特徴を整理すると次のとおりとなる。

(1) 加越山地植物区
 この植物区は、一ノ峰・小白山から丈競山・火灯山に至る加越山地で、谷峠以東は千数百m、以東は千m前後の山地からなり、冬期に積雪が多い。三ノ峰は日本海側高山草本類の西南限であるため、白山・別山から南下した暖地性植物の多くは、この植物区で止まっている。
 この植物区にのみ分布している希なものには、ミヤマコウゾリナ、イワギク、ミヤマシャジン、ハナイカリ、ムシトリスミレ、ミソガワソウ、ツルガシワ、コケモモ、エゾヒョウタンボクなど数十種もの種類がみられる。福井県固有のエチゼンダイモンジソウは、この植物区の西端にある丈競山に自生している。
(2) 越美山地植物区
 東は岐阜県境の毘沙門岳・油坂峠から西は三国岳付近に至る越美山地で、温見峠以西は流域で最も積雪の多い地域である。この植物区の特徴は、三ノ峰から南下した多くの温帯性植物と、岐阜県側から侵入した外帯系要素とが共存していることと、これらの植物の多くがこの区域で限止していることである。
 この植物区のうち、旧穴馬村付近は太平洋側気候への移行帯で、植物相、植生ともに特徴がある。すなわち、ツルシロカネソウ、ボタンネコノメ、オオバマンサク、ミヤマチョウジザクラ、シロヤシオ、コアブラツツジ、ヒダアザミ、カンスゲなどは、この地域でのみみられる植物である。
 油坂峠付近から以西には、クロベ、ダケカンバ、イブキトラノオ、ノウゴイチゴ、ゴヨウイチゴ、エゾフロウ、ミヤマスミレ、ヒメアカバネなど、この植物区でしかみられない数10種もの種類が生育している。
(3) 越前低地植物区
 北は石川県境の牛ノ谷峠から南は木ノ芽峠に至る広い範囲で、越前中央山地・南条山地・丹生山地・加越台地・福井平野・大野勝山盆地を含む地域である。
 この地区は標高800m以下であり、頂上付近の一部にブナ林(ブナ−オオバクロモジ群集)がみられるものの、ほとんどスギ植林が施されている。台地や山麓は、越前焼や瓦焼などの燃料をはじめ炭などに使用するため伐採が進み、ほとんどがアカマツ林となっている。近年は、照葉樹林への遷移が急速に進んでいる。
 1) 丹南山地植物亜区
 この植物区の特徴は、暖地性植物が多くみられることと、カンアオイ類の一種が分布し丹生山地で限止していることである。
 この植物区を日本海側の分布の北限または東北限としているものとしては、フウロケマン、チャルメルソウ、ウラジロウツギ、コバンノキ、オオバアサガラ、ベニドウダン、コバノタツナミソウなど10数種である。また、西限または西南限としているものとしては、ノジリボダイジュ、アズマシロカネソウ、ナニワズ、ミノコバイモなどである。
 稀な植物としては、アイヌソモソモ、コゴメウツギ、カタイノデなどである。
 2) 越前中央山地植物亜区
 この植物区には、カンアオイ類のヒメカンアオイが生育している。また、暖地性シダ植物が比較的に豊富である。
 フユザンショウは、分布の日本海側の東北限と考えられている。
 3) 加越台地植物亜区
 この植物区は、主にアカマツ林であるがスギ植林もみられ、台地下方には小さい湿地が点在する。この湿地には、ミズスギ、ヌマガヤ、ノハナショウブ、サクラバハンノキ、エゾリンドウなどがみられる。山地には、分布の日本海側の東北限と考えられているウラボシノコギリシダがみられる。

図1.2.22 植物地理的区分図 (※福井県植物誌 p.24)


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