九頭竜川流域誌


8. 川にまつわる歌
8.1 万葉歌

 大伴家持が編集したといわれる万葉集は、長歌・短歌をあわせて約4,500首にのぼる。そのうち福井県に関係あるのは100首近くあり、なかでも武生に関係するものが大半を占めている。これは、編者の大伴家持と同族である大伴池主が、越前国の掾(四等官で国司の第三位)として武生に赴任したことによるものといわれる。
 武生に関係する万葉歌は、万葉集巻十五に収められている味真野に流された中臣宅守と、奈良の都に残されたその妻である狭野茅上娘子の相聞歌63首と、巻十八、十九に収められている大伴家伴と大伴池主の贈答歌19首である。
 味真野には、中臣宅守と妻の茅上娘子との相聞歌が、石碑に刻まれている。次に、その代表作を紹介する。



君が行く道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさむ天の火もかも
茅上娘子

畏みと告らずありしをみ越路の 手向に立ちて妹が名告りつ
中臣宅守


 また、大伴家持は、天平勝宝2年(750)4月に武生の池主のもとへ届けさせている。これは、日野川に関係する歌でもある。そのときの長歌と短歌を紹介する。


天離る 夷としあれば 彼所此間も 同じ心そ 家離り 年の経ぬれば うつせみは
物思繁し そこ故に 情慰に 霍公鳥 鳴く初声を橘の 珠に合へ貫き 蘰きて
遊ばふ間も 丈夫を 伴へ立てて 叔羅川 なづさひ泝り 平瀬には 小網指し渡し
早き瀬に 水鳥を潜けつつ 月に日に 然し遊ばね 愛しきわが背子
叔羅川瀬を尋ねつつ わが背子は鵜川立たさぬ情慰に
鵜川立て取らさむ鮎の其が鰭は われにかき向け思ひし思はば


 叔羅川は日野川のことで、当時は鵜飼いが行われていたので、「日野川に共でも連れて早瀬を求めて鵜飼いをしなさい。そうすれば心が慰められますよ」という意が前者である。
  後者は、「もし心から私を思うなら、鵜飼いをしてお取りになった鮎のひれを、私の方にお向け下さい」といった意味である。1羽の鵜を贈ったという話が万葉集にもみられる。


叔羅川むかしかつけし鳥の名の 浮き世はいまもかわらざりけり


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