南港魚釣り園にて

「日曜日の早起きは気持ちいいですね〜」
爽やかな笑顔で、日曜日の午前9時に南港海釣り園の釣り大会受付に現れた川島翼くんは、印刷関係の会社に勤める社会人1年生。実家は石川県金沢市、滋賀県の大学を経て、大阪暮らしも1年目。この辺りにドライブに来たことはあるが、大阪湾での釣りは初めてとのことで、「大阪湾デビュー、楽しみです」

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▲まずは大阪市民釣り大会受付へ

受付を済ませて、「水質調査キット」を受け取り、釣り具を借り、売店でエサのオキアミを買って、さっそく釣り場の堤防へと歩を進めつつ、
「スミマセン、大阪湾の水はもっと汚いのかと思っていました(笑)」

子どものころ釣り船に乗ったことのある日本海や、学生時代にブラックバスを釣りに行った琵琶湖とは、大阪湾は比較出来ないほど汚いだろうと、先入観があったというが、目の前に広がる青い大海原に「都会の割にきれい」と顔がほころぶ。

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▲早速公認釣りインストラクター氏が手ほどきに・・

暖かな日差しが注ぐ中、さっそく釣りの準備を開始する・・と、そこへ現れたのが、「指導員」と書いた腕章を付けた「公認釣りインストラクター」氏。
この魚釣り園を運営しているNPO法人釣り文化協会のメンバーで、釣り人を応援するためにボランティアで常駐している。

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「釣りって個人プレーだから、釣り人同士はグループを組まないのかと思ってたけど、違うんだ・・」と川島くん。
魚場の情報を共有する目的などのグループはたくさんある。この釣り大会は、釣り人たちの横のつながりを生かし、釣り文化を継承すると共に、釣り人をとりまく自然環境に目を向けようという釣り文化協会の活動の一環だと聞く。

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釣りインストラクターのアドバイス

▲オキアミの入れ方にもていねいなアドバイスを受ける

「オキアミは押さえて入れすぎると出にくくなるので、ゆるく入れてください」
釣りインストラクター氏のアドバイスにしたがい、川島くんはエサを付け、竿を投げる。

「この辺りは、水深何メートルほどですか」
「7メートルほどです。ご存知だと思いますが、オキアミを入れた網は上下するようにして撒き餌にしたらいいですよ」
「群れ,今日はどうですか」
「残念ながら小さいですね。周り(に群れが来て他の人が釣れているかどうか)を見ながら,竿を投げるといいですよ」

竿を垂らしながら川島くんがする質問に、釣りインストラクター氏は的確な答えをくれる。そして、よもやま話も・・。

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「インストラクターさんは釣り歴、何年くらいなんですか」
「かれこれ10年です」
「うわあ、大先輩だ。釣りの楽しさって?」
「大物が釣れた時のうれしさ、ですか。私は銀行に勤めていたんですが、休み毎に海釣りに。釣り仲間との情報交換も楽しいですね」
「僕は海釣り初心者ですけど、海辺って居るだけで癒されますよね。今日はほんと、気持ちいいです」

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▲2時間ねばってみたが・・

さて、川島くんは、投げ釣りを繰り返す・・・が、なかなか釣れない。
10メートルほど向こうには、30センチ大のボラを釣った人がいる。
「イワシしか来ませんわ」
と、イワシ数匹をつり上げた右隣の人は言うが、
そのイワシすら川島くんの竿にはかからない。魚群れは時折やってくるのだが、うまい具合にかからないのだ。

・ ・・・2時間経過。オキアミがなくなったところで、
「う〜ん、今日はあきらめて、来週にでも出直します」
と、川島くん。次は水質調査だ。

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海の健康診断?

川島くんが水質調査キットを手にすると、すかさず釣りインストラクターがその方法を教えに来てくれた。

▲色見本から海にもっとも近い色を探す

「最初に、この色見本を海に向けて、もっとも近いと思う色番号を記入してください」
川島くんは、迷いながらも群青色っぽい色をチョイスし、「結構、アナログなんですね」とポツリ。

「実は僕は文科系人間なので、難しい調査なら上手く出来ないかと思ってたんですが、これならとても簡単。ほっとしました」

「見た目は大事。海の色でプランクトンや青潮の発生状況も分かるんですよ」
と言う釣りインストラクターに、
「へ〜。人間の健康診断と同じですね。元気があるかどうか、体に出ますもんね」と、川島くん。

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▲キットに含まれるペットボトル

次は、キットに含まれるペットボトルで表層の水をくみ上げ、温度計で水温を計る。「23度」。
比重計を用いて塩分濃度を計ると「1,021」。
海底(7.5メートル)の水をくみ上げて測定すると、水温24度、塩分濃度1,024。

「冬になるほど、海底のほうが暖かくなるんですね。塩分濃度は、昨日降った雨水も影響してるでしょう」と、釣りインストラクター氏は言う。

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さらにpH(水素イオン濃度指数)は「8」、DO(溶存酸素量)は「6」。

▲CD-ROM風の光る円盤

「Phは、7.0より低ければ酸性、高ければアルカリ性ですが、大阪湾では普通8.0〜8.5程度ですから、その範囲内。今日の大阪湾は病気の兆候なく元気だということですね」
「DOは2.0以上で魚が生きていけるんですよ」
川島くん、なるほど、なるほどとしきりにうなずく。

最後に、CD-ROM風の光る円盤に重りをつけて海水に沈め、水深何メートルまで肉眼で見えるかをチェック。「3.5m」だった。
「びっくりです。都会の海なのに(笑)、透明度がこんなに高いとは」

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「次も、調査のお手伝いしたい」

▲データ調査中の川島くん

それらの数値を報告書シートに書き込む川島くんに、調査の感想を聞くと、
「僕のような者が調査したデータが役立つかもしれないとはうれしいですね。これからも釣りに来て、気軽に調査のお手伝いしたいな。今日は海辺で過ごせて、本当に癒されましたよ。魚が釣れなかったことが心残りなので、また改めて再訪します」

南を向けば、未来都市のような堺のコンビナートが見える南港。この環境に身を置くと、「癒される」と実感するのは川島くんだけでないはず──と、思えるのだった。

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