荒れた島を「なんとかしたい」

由良から渡船で1分。成ヶ島は、由良の町からすぐですね。
成ヶ島展望台から。「ミニ天橋立」のような光景が広がる

最短のところは50メートルほどしか離れていません。南北2キロに連なる約35haの島で、かつて“宝の島”と呼ばれていました。地元民は夜明けになると島に渡り、浜に打ち上げられた海草(天草)を集める仕事に精を出したものです。また、50歳以上の者にとっては子どもの頃、恰好の遊び場でした。それも、実利の伴った遊び。アサリやトコブシ、サザエが採れ、売れましたよ。

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かつては島に国民宿舎やキャンプ場もあったとか。
約20年前まで海水浴客で賑わった成ヶ島の海岸

海水浴や潮干狩りのメッカで、京阪神などから来る人たちでも賑わいました。でも、レジャーの多様化の波を受け、宿舎や定期渡航船が廃止されたのが1986年。今から20年ほど前です。以後、松は枯れ、ゴミは打ち上げられ、荒れ放題でした。そんな島の姿を見るにつけ、「なんとかして美しくしないと」と思っていた仲間が、立ち上がったわけです。

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「成ヶ島を美しくする会」。そのまんまのネーミングです。

はい。会員約140人の思いそのものですから。

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松の植林、成ヶ島まつり・・

どんな活動をして来られたのか教えてください。

最初は、島一面に生えていた松が松食い虫にやられていたので、どうにかしたいと。毎年500本ずつ寄贈してくれる人が現れたので、6年に渡って3000本の黒松を植えたんです。うまく育っていたんですが、残念ながら10年ちょっとで、また松食い虫にやられて全滅しました。

次は、由良の地元民の多くに、成ヶ島に関心を向けてもらうことが大事だと、7月の海の日前後に「成ヶ島まつり」というのを開きました。内容は婦人会に協力してもらって野点(のだて)、子ども会にバーベキュー大会、老人会にパットゴルフをしてもらうなど。海岸を歩いてゴミを拾ってきて、変わったゴミを出してくださいと「漂着ゴミコンテスト」もしましたね。みんなで面白がりながらやりました。

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コンテストには、どんなゴミが出されましたか?

位牌とか、ロシア製のペットボトルとか・・・。

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びっくりされました?

いえ、海岸中がゴミだらけですから、変なものだって簡単に拾えます(笑)。以来、毎月第2日曜日に定例の掃除をしています。

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成ヶ島まつりを何年続けたのですか。
島にはハマボウがまさに群生している  ©成ヶ島を美しくする会

成ヶ島まつりは毎年400人ほどが参加し、盛況だったんですが、準備に手間がかかりすぎるので、3年ほどで「ハマボウ見学会」に変更しました。成ヶ島は群生しているハマボウが夏にいっせいにレモンイエローのきれいな花を咲かせますから、その風景を見に来てください、と。

これは不定期に今も続けており、由良以外からも色んな人たちが来られた。後に地元情報と研究の成果を共有することになる大阪府立大学の細田龍介先生(名誉教授=海域環境学)との出会いもありました。

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「日本のマングローブ」だからこそ

専門家からの注目も浴びた?


2月のハマボウ。満潮になれば潮が満ちる地に自生している

ええ。多くの研究者もやって来られて、成ヶ島には、大阪湾に生息する700種類の貝のうち434種が棲んでいて、うち30種が絶滅危惧種だということや、約250種の植物が確認され、うち14種が兵庫県版レッドデータブック絶滅の恐れのある野生生物の生態分布などを明らかにした資料)に名を連ねていることなどを、私たちは知ることになりました。府立大学の矢吹萬壽先生(名誉教授=農学生命科学)が 「日本のマングローブだ」と言われ、私たちは始めのうち地元を自慢できると思った。

でも、次第に、逆に、他地域から減っていっていることを憂うべきことだと思うようになった。残された成ヶ島の自然を絶滅させてはいけない、学習の場にしないといけないと強く思うようになっていったんです。

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細田先生と一緒に「成ヶ島探見の会」というのを作っていらっしゃいます。
砂浜を掘ると貴重な貝類との出会いも

私たち地元民は自然の恵みを享受して暮らしてきたわけですが、成ヶ島にはどれほどの自然があるのか、細田先生がコーディネーターになってくださって調べてみようとなったのです。細田先生の学術調査を手伝ったり、希少価値のある貝類を探したり、ウミガメの産卵を見守ったり、稚魚が集まる海草アマモの生態を見たり。様子を「探見」の文字どおり、自然の様子を探り、見るといった活動を、不定期に行っているんです。由良以外から「成ヶ島を見たい」という方が来られたら、案内もしていますよ。

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地元の自然、再発見ですね。
「去年はここでウミガメが産卵した」と話す花野さん

そうです。成ヶ島にはハマボウだけでなく、潮が満ちると海水の没するのに枯れない「ハママツナ」の群生もあり、晩秋に真っ赤に紅葉しますし、ハマボウ群落の近くに自生するハマヨモギの根に寄生しながら生きる「ハマウツボ」も6月頃に淡紫色の花をたくさんつけます。ウミガメの産卵はやわらかい砂の上で行われます。手つかずの自然が残っているからこそなんです。

大阪湾にわずかしか残っていないアマモも群生している。だから、島を荒れさせてはダメ。漂流ゴミをなんとかしないといけないことともつながっているんですね。

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それで、大がかりなゴミ拾い──クリーン作戦もしようということに?
記念すべき第1回のシンポジウム(1999年)

そうそう。1999年、ちょうど私が由良中学校のPTA会長だったこともあり、中学校と連携し、クリーン作戦がスタートしました。今年で13年目になります。

その後、探見の会の発足以来、海の日に午前中ハマボウの観察会と海岸清掃、午後は由良中学校の体育館で「みんなで見て考えよう成ヶ島を」のテーマに自然環境シンポジウムを開催しています。

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成ヶ島に、異常なほど漂着ゴミが多いのはなぜなんですか。
波が穏やかなこの日のゴミは少ないが・・

私たちは最初、由良の地元住民のマナーが悪いからだと思っていたんですが、違ってました。細田先生の研究によると、大阪湾に浮くゴミが、埋め立て護岸や港の垂直護岸には漂着せずに移動し、時計回りの潮流に乗って、自然海岸や自然の渚が残る成ヶ島にやって来るということなんです。半端じゃないです(笑)。

クリーン作戦以外に、有志で定例の掃除を毎月やっているわけですが、どんなにきれいにしても1カ月後にはまたゴミが山のように漂着し、台風の時は砂地が見えないほどになる・・・・。

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陸域から流れ流れて成ヶ島へ

どんな種類のゴミが多いのですか。

最も多いのは発泡スチロール、ペットボトル、ビニール袋ですね。最近とみに増えているのはペットボトルに詰めた注射器。覚せい剤を使用したもののようです。ライターや空き缶、タイヤからクーラー、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品まで、「これだけあれば暮らせる」と思えるほど、ありとあらゆる種類が流れ着きます。

内陸部から「長い旅」の末に成ヶ島に漂着したゴルフボール

ぎょっとするのは、ゴルフボールの出所。ゴルフクラブや練習場の名前が明記されていますから、どこから流れてきたか一目瞭然でしょう? 兵庫県や奈良県の山間部、岡山県の平野部など海に面していない土地の名前が書かれたものも多いんです。交通標識や「ゴミの投げ捨ては、法により処罰されます」と書いた自治体の看板までまで流れ着いているんですから、これはもうブラックユーモアです(笑)。

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海洋投棄されたゴミだけでないということなんですね?
たくさんの交通標識や看板が流れてくる不思議

そう。成ヶ島に漂着するゴミは、山や谷、小川、農業用水路に捨てられたものも含まれています。それが川の本流を通って大阪湾に流れ込み、流れ流れて成ヶ島に届いているのだという事実。何気なく捨てたもの、落としたものでも、大都市部を抱えた自然海岸に積もり積もれば莫大なのだということを、広くみなさんに知ってもらいたいと思います。

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クリーン作戦で拾い上げられるゴミの量は?
クリーン作戦の日にゴミ拾いする由良中学生たち

10分も拾うと45リットルのゴミ袋がいっぱいなりますから、由良中学全校90数人の生徒が1時間余りずつ清掃して、2トン車6台分ほどになりますね。最初の頃は、拾ったゴミを野焼きで処分していたんですが、中学生のほうから「僕たち、掃除に来てダイオキシンを発生させていてはまずいのでは?」と指摘され、洲本市の協力を得て、ゴミ回収車に来てもらうようになったんです。

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ところで、漂着ゴミがこんなに増えたのは、いつごろからなんでしょう?

私が子どもの頃の漂着ゴミといったら木の枝くらいなもの。焚き木にしていました。増えたのは、高度経済成長期からでしょう。ビニールや発砲スチロールなど腐らない石油化学製品が増え、使い捨てが増えると同時に、大阪湾がコンクリートの直立護岸に囲まれていった時期と一致しますね。

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なるほど。大阪湾から自然の海岸が消えたことも、成ヶ島にゴミが漂着する要素なんですね。まつり、掃除、ハマボウ見学会など一連の活動から見えてきたことは?
今よりも悪くならない努力をするのが一番

成ヶ島の魅力をさまざまな角度から再発見でき、今よりも悪くならない努力をするが一番でしょうか。掃除に関しては、どんなに掃除しても、大量の漂着ゴミといたちごっこですが、継続は力。一連の活動が、地元民にも地元外の人にも 理解を深めてもらうことにつながったと思う。行政にも伝わり、水洗の公衆トイレの設置や渡し船の復活を見ました。

残念なことは、調査にやって来るさまざまな研究者や学生の中には、情報を提供する私たちに調査の結果をフィードバックしないばかりか、中には成ヶ島の植物を他地に持って行って植えるケースもあること。自然の生態系を変えるという見地から、私は反対。私たち人間は「自然」に試されている。無茶なことをしてはいけないと思うんです。

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今後の活動の抱負を教えてください。
活動をずばり「楽しい」と言う副代表の山中千晴さん(右)、生嶋史朗さん(左)と

この19年間に、活動をしなかったら知り合うことのなかった人たち──成ヶ島を研究対象とする研究者や大阪湾の他の地で活動をしている人たちとずいぶん知り合いました。島へ大勢の人が来られるし、私たちが活動報告などに出かけることもある。“外の風”は刺激的だし、地元の仲間も広がりました。 だから、活動していて実に楽しいんですね。今後も、“外”と“地元”両方のネットワークをさらに広げ、楽しみながら活動を続けていきたいと思っています。


成ヶ島を美しくする会
TEL 0799-27-0393
HP http://www1.sumoto.gr.jp/ymnk4a/index_001.htm

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