2007年6月17日、大阪南港野鳥園(※1=以下、野鳥園)で「生きもの育て隊 アオサ取り」という活動が行われた。
文字どおり、野鳥園にいる生きものを育てるために、藻の一種アオサを取り除く活動で、参加したのは、子どもからシニアまで約80人。この日の模様をレポートしよう。

「野鳥の食べものがなくなったら大変」と80人が参加

 同日朝、大阪南港の突端に位置する野鳥園へ、三三五五と集まって来たのは、親子連れをはじめ、ボーイスカウト、シニアグループ、大学院生ら約80人。午前10時、野鳥園展望塔で、野鳥園レンジャー、NPO法人南港ウェットランドグループ(※2)理事・事務局長の石井正春さんの挨拶から始まった。

石井正春さん
オープニングの挨拶を聞く参加者たち

「大阪湾は、昔から渡り鳥の飛来地です(※3)。野鳥園の干潟には、貝やゴカイ、ヨコエビ、カニなどがたっぷりいるので、渡り鳥たちはこれを目当てにやって来るんですね。特に、越冬地のオーストラリアやニュージーランドと、繁殖地のシベリアのツンドラ地帯の間を長い旅をするシギやチドリがたくさんやって来ます(※4)が、“食べものがなくなったら大変”ですから、今日はアオサ取りを、よろしくお願いします」

この日もシギやチドリが飛来している

 “食べものがなくなったら大変”というのは──。野鳥園の干潟には春から秋にかけてアオサが大量発生するが、これが原因で生物が棲めなくなる。すなわち、野鳥園に渡来する野鳥の食べものがなくなってしまうわけで、一大事。という意味だ。

 続いて、
「暑い一日となりそうですが、普段は入れない干潟に入り、自然の素晴らしさに気づいてもらえたらと思います」
 と、野鳥園園長の木村茂さんからウエルカム・メッセージ。そして、参加者たちはいよいよサポート役の南港ウェットランドグループの皆さんの指示に従って、帽子を被り、長靴に履き替え、干潟へと繰り出した。

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まずは湿地の生物調査〜石の下に1、2万の生物が

生物調査はこんな風景の中で

 普段立ち入ることができない干潟に入れることも、このイベントの魅力の一つだ。湿地〜干潟エリアに入るや否や、参加者たちから、
「うわ〜。きれい!」
 と、歓声が上がる。緑の草木が生い茂る中、潮風が吹いてくる。波の音が聞こえる。彼方に六甲山系の山々まで見渡せる光景が広がっているのだ。干潟、つまり潮が引いたときに現れる海辺を歩く。

普段入れない湿地に、足を踏み入れる
生きもの観察をしながら歩き北池に到着

「この草をご存知ですか?」
 と、石井さんが、薄紫色の可憐な花をつける草を指した。
「ウスベニツメクサです」
 他にも、ヨシをはじめ、イソヤマテンツキ、ホコガタアカザなどの群落が、目の前に見える。
「塩性植物と言います。潮の干満や海風の影響を受ける厳しい環境でもうまく適応して生活していますよ」

「あそこの草に注目!」と石井さん
可憐な花をつける塩性植物が咲き乱れるエリアも

 波打ち際で、では次にこれも見てみましょうと、石井さんが足元の石をひっくり返した。すると、石の裏側にたくさんの貝などがくっついている。
「タマキビガイ、マガキ、ミズヒキゴカイ、タテジマフジツボ、ヨコエビ類、イソガニ・・。一個の石の下には、1万〜2万の生きものがいるんです」
 と聞き、参加者はそれぞれ自分の足元の石を裏返す。
「石は、上下を元どおりに戻しておいてくださいね。みな、自分たちが生きていくのに必要な位置にくっついているわけですよ」

石にくっついていた貝類
足元に、数えきれないほどの貝やカニ類が

 分かりやすい説明に、一同、納得。
 そして、いよいよ今日の目的地、北池の北に広がる干潟に到着した。

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アオサが干潟の環境に「大敵」なワケ

 北池(※5)は、西池、南池と共に3つある海水の出入りがある池の一つ。干潮時には干潟、磯が現れるようにつくられている。干潟は、自然の水質浄化作用を果たすばかりか、貝、ゴカイ、ヨコエビ、カニ、昆虫、魚など小さな生きものの住処でもある。野鳥たちは、これを食べに集まって来るのである。

「例年に比べて今年はなぜか、アオサが少ないんですが・・・。気をつけて池に入って、浮いているアオサを取ってください」

水に浮くアオサ(今年)
アオサが多い時は、海面を埋め尽くす(昨年)
写真提供:大阪南港野鳥園

 アオサは、ワカメに似た「緑海藻」の一種だ。濃緑色で平たい形状。全国の沿岸で見られ、本来は、“ワルモノ”ではない。水中の窒素やリン酸などの栄養成分を吸収し、沿岸海域の水質浄化 ・富栄養化防止の役割を果たす上に、食材の青海苔や、有機農業の有機肥料などに利用されている。しかし、採算が合わないことから、採集されずに放置されるものが後を絶たない。腐敗して逆に海の富栄養化や赤潮・青潮 の原因物質にもなっているのだ。

干潟にアオサが埋め尽くす様子(昨年)
写真提供:大阪南港野鳥園
10分も取るとアオサの山ができる(去年)
写真提供:大阪南港野鳥園

 また大量発生すると次第に酸素が不足し、酸素を使わないで働くバクテリアによって分解されていくことになる。その際に、メタンガスや硫化水素が発生し、干潟の表面が真っ黒になり、底生生物が生活できなくなる。

アオサの大量発生により、真っ黒になった干潟の表面の土

 南港ウェットランドグループの面々から、干潟の表面の泥や砂をいっしょに取らないよう、「浮いているアオサ」だけを取るように、案内があった。

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泥んこになるのも楽し、アオサ取り

さながら「海の遠足」状態
浮いているアオサは簡単に取れる

 おそるおそる池に入った参加者たちだが、5分もしないうちに、足が濡れるのもおかまいなし・・になったようで、「海辺の遠足」の様相を呈してきた。大人も子どもも、泥んこになって、水の中にひらひらと浮かぶアオサを見つけては取る。
「きれいだ!」
 と、アオサ片手に記念撮影している人も何人か・・。

毎年参加している親子も
アオサ運搬は手づくりの用具で

 取ったアオサを、南港ウェットランドグループが用意したボートに入れる。ボートが満杯になると、同グループのメンバーが岸辺に設置された集積所に次々と運ぶ。集積所は、牛乳ケースを敷き、ネットを張った手作りで、2×3メートルほどの大きさ。
「例年は、一回(約2時間)で2、3トンが取れ、集積所が満杯になるのですが」
 とのこと。昨年は、アオサ取りを3回し、合計10トンを集めたという。集積所に集められたアオサは、徐々に水分が抜けて、乾燥していく。最終的には、粒状の有機物となって底生生物の栄養分となるそうだ。

集積場にて
取ったアオサは手分けして集積場に運ぶ

「今年、アオサの発生率が低いのは、日照条件、水温や塩分濃度との関係だろうと思われますが、まだ解明されていません」(石井さん) 
 この日は、例年の量の半分弱の“収穫”となった。

この日の収穫
集積場に満杯だったアオサは1週間で
この程度の嵩になる(昨年)
写真提供:大阪南港野鳥園

 「都心近くに、こんな海辺があったとは。小さな生きものが棲める環境づくりに、微力ながら協力できたと思うとうれしい」と参加者たちの感想(※6)。

 「アオサ取りへの関心が、文化的、社会的環境の中における自然環境について考えるきっかけになれば。ひいては、自分と他者の両者への思いやる心を持ってもらえたら」と、石井さんは話している。

 なお、野鳥園でのアオサ取り活動は、2007年、この日を初日に計3回行われたが、毎回、参加者募集が始まるとすぐに定員(50人)以上の申し込みがあり、早々に締め切った。7月29日(日) には、子どもたちを対象にした「夏休み子どもボランティア アオサ取り」(社団法人大阪自然環境保全協会主催)、9月9日(日) には、アオサを取り除いた干潟にシギやチドリが集まっている様子を観察する「南港生きもの発見隊 シギやチドリを観察しよう!」イベントも開かれる。また、これらの催しに加え、最近では企業ぐるみでの「アオサ取り」活動も増え、多方面から海辺環境やアオサ除去への関心が広がってきている。

文・井上理津子
写真・丸井隆人

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