「かけがえのないこの浜を次世代に残したい」
御前浜・香櫨園浜プロジェクト しなやかに稼働中〈2〉

砂浜が続く、兵庫県西宮市の御前浜(おまえはま) と香櫨園浜(こうろえんはま) は、大阪湾の湾奥部に残る自然海岸が1%に過ぎない中、貴重な存在だ。
かつて魚も獲れ、潮干狩りもでき、海水浴も楽しめたが、取り巻く環境の変化などにより、昨今は荒廃を免れなかったこの浜で、「もう一度美しい浜、人が遊べる浜に戻したい」と思っていた地域住民たちと、行政、大学生らがゆるやかに連帯した活動が繰り広げられている。
御前浜・香櫨園浜プロジェクト」(事業主体:兵庫県阪神南県民局県土整備部尼崎港管理事務所=通称あまかん)という、浜の再生を目指した、“ハード・ソフト一体型”の協働活動だ。その経緯と現状を取材した。

地域住民・行政・専門家がゆるやかに連帯

 そもそも、御前浜・香櫨園浜プロジェクトは2003年にスタートした。住民参加を呼びかけるのに先立ち、当初2年間で、行政と民間シンクタンクが、浜の歴史の掘り起こしと、ハード面の現況把握、「利用者は何を期待しているか」など現況調査を済ませていた。

 「西宮砲台が貴重な歴史資産であることを、改めて知って誇りに思いました。一方で、海と街が防潮堤で分断されてしまっていることや、浜への入口への階段が狭くて急なこと、砂浜が草地化していっていること、看板群が景観を阻害していること、ゴミの不法投棄がなくならない要因などが見えてきました」
 と、あまかん港湾整備課の山口一哉さん。

浜には「○○禁止」を示す看板が点在
海と浜を遮断する防波堤と急な階段

 それらの課題を整理し、有識者へのヒアリングなどを通じて、「子どもを安心して遊ばせるには?」「砂浜再生の方法は?」「防災機能を持ち浜に親しめる防潮堤は?」「御前浜・香櫨園浜ならではの海辺の使い方は?」と、模索もした。

 そして、その後地域住民・利用者たちが、2005年からこのプロジェクトに参加し、行政と住民の対話が始まったのだ。

 「御前浜・香櫨園浜プロジェクト」の活動の特徴は、参加者の話を聞き・語ること。初年度は、月にほぼ一度「なぎさゼミナール」や「なぎさカフェ」が開かれ、コミュニケーションの場、活動のベースづくりが開始された。参加者たちは、地元住民の視点から浜へのそれぞれの思いを語った。行政への直言も多々出された。多くの人の思いを聞くことは、自分の思いを整理することにもなる。

浜で行われている「なぎさカフェ」(2006年8月)
この案内を見て初参加する人も

 浜辺のテントの下で行なう「なぎさカフェ」では、口コミでやって来た人や散策中に覗いた人たちも含めてテーブルを囲み、紙コップでお茶を飲みながら、語り合った。浜の将来像を「海辺のひろっぱ──つながる未来」にしようと意見が一致。浜を「まもり・つかい・つたえる」を合い言葉に、プロジェクトとしての「行動」が具体化し始めた。

 活動2年目は、この浜の魅力や問題点を多くの人たちにもっと知ってもらう必要があると「メッセージプロジェクト」として広報活動に取り組むとともに、御前浜らしい効果的なサイン計画づくりと、浜の課題やみんなの思いを行動に移す実践活動が動き出した。

2006年度は「より良くしたい思い」を行動へ
つなげる「メッセージプロジェクト」を展開
2007年度のテーマは
「子どもと海辺プロジェクト」

 そして今年は「子どもと海辺プロジェクト」として、みんなが一番願っていることを、自分たちができることからやろうと、サイン見守り、出前講座、海岸清掃、勉強会、イベント、情報発信の6グループに分かれ昨年の経験を活かし、地域住民・利用者主体の実践活動がいよいよ開始となった 。

 「このプロジェクトが面白いのは、義務感からではなく、それぞれの浜への強い思いから集り、自分のスタイルで活動しているからだと思います」と、参加者は言う。

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