「かけがえのないこの浜を次世代に残したい」
御前浜・香櫨園浜プロジェクト しなやかに稼働中〈3〉

砂浜が続く、兵庫県西宮市の御前浜(おまえはま) と香櫨園浜(こうろえんはま) は、大阪湾の湾奥部に残る自然海岸が1%に過ぎない中、貴重な存在だ。
かつて魚も獲れ、潮干狩りもでき、海水浴も楽しめたが、取り巻く環境の変化などにより、昨今は荒廃を免れなかったこの浜で、「もう一度美しい浜、人が遊べる浜に戻したい」と思っていた地域住民たちと、行政、大学生らがゆるやかに連帯した活動が繰り広げられている。
御前浜・香櫨園浜プロジェクト」(事業主体:兵庫県阪神南県民局県土整備部尼崎港管理事務所=通称あまかん)という、浜の再生を目指した、“ハード・ソフト一体型”の協働活動だ。その経緯と現状を取材した。

思いが実践に発展し、6グループが活動

 サイン見守りグループは、浜の看板を見直した。
 「メッセージプロジェクトの実践活動で、点在した『ゴミ持ち帰り』『花火禁止』などと注意書きされた看板など浜の看板を数えると78もあり、びっくり。県や市など設置主体もさまざまで、相当古く傷んでいるものも多く、説得力がない上に景観的にも美しくなかったんです。現況の看板の設置者や管理者など一つずつ看板の現状と必要性をチェックした上で、新たに「浜全体のサイン計画」を参加者みんなで検討し、その第1号として私たちの思いを込め、利用者に浜の貴重な環境を伝えることで利用のルールへの理解を求める総合案内板を作ったんです」
 と、加藤博彦さん。

住民と利用者の思いを表現した総合案内板
夜間は禁止事項がソーラー電池で光る

 総合案内板は「人と自然の“いとなみ”が共生するかけがえのないこの浜を未来へ」がキャッチコピーで、設置者の名前は、行政でもグループ名でもなく「御前浜・香櫨園浜を愛する住民・利用者、兵庫県、西宮市」。「私たちがこの浜を見守っています」と書いた。浜に飛来する渡り鳥などの絵も描かれ、「水上バイク」「犬の放し飼い」など禁止事項が夜間にソーラー電池で光る仕組みで、御前浜への西側入口に、今年4月に設置された。各地にある従前の看板とは、発想も見た目も異なるこの看板は、図らずも (社)日本サインデザイン協会主催のSDA賞関西地区デザイン賞を受賞した。

“かざぐるま”を嬉しそうに浜の風に向ける
子どもたち
浜の植物に興味津々。
大学生や地域住民が案内役

 出前講座グループは、地元の小学校から要請され、今年度からスタートした兵庫県教育委員会の「体験型環境学習プログラム」として、出前授業を行っている。
 「6月に、教室で1時間の授業をした後、浜でフィールドワークをしました。神戸芸工大の学生のアイデアで事前に工夫して作ったかざぐるまを持って行き、浜辺で風の動きを調べたり、香櫨園浜で植物探しもしました。子どもたちが、遊びを通して自発的に海に入って行ったのがちょっと意外で、うれしかったですね」
 こう話すのは、粟野光一さん。11月にも2度目の出前授業を行うことになっており、浜で遊びながらの野鳥観察を企画中だという。

河口の砂をバケツリレーで運ぶ「ニテコ」の様子(9/23)

 イベントグループは、夙川から運ばれた砂が河口にたまることにより潮の流れが変わり、御前浜が痩せてきていることに着目。潮の流れを元に戻すために、なぎさカフェやイベントの日に、河口にたまった砂を取り、浜に上げるバケツリレー「ニテコ(※2)」を呼びかける。発案者の諏訪禎男さんは、「ニテコは6月のなぎさカフェから始め、すでに2回やりました。まだ“実験”の位置づけですが、飛び入りで参加してくれる人たちもいて、意識付けの上でも確かな手応えを感じています。今後は、きれいな砂浜を生かした子ども向けのイベントも開催したい」と話す。

草刈りやゴミ拾いなど、浜での清掃活動(9/23)
草やゴミは収集され、きれいな浜に(9/23)

 ほかに、海岸清掃グループは地域の子ども会と合同での清掃活動を、勉強会グループは赤潮、青潮、海の生物、浜の植生などについての自主勉強会をしている。情報発信グループは「ツタエホウダイ」という名の通信を作り、浜での活動や浜に関する情報を、地域住民・利用者の視点で発信している。

手づくりおもちゃで遊ぶ子どもたち
大人気の「かえっこバザール」

 神戸芸術工科大学の学生は、出前講座グループと協力して、浜辺に来る子どもや親子連れに向けて、浜ならではの遊びを提案した。「ひろっぱ教室」と題して、凧やかざぐるまを作ったり、遊びを通して浜のゴミ調べる探偵団や、様々な浜辺の遊びワークショップに参加することによってポイントがたまり、ポイントに応じて各家庭で不要になったおもちゃと交換できる「かえっこバザール」を開いたり。若い発想と行動力を持ち込んだ。

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