みんなの琵琶湖にフナやモロコを呼びもどす

今シーズンのビワズ通信は、太古から脈々とつちかわれてきた、人と湖と、そこに棲む魚たちとの関係をいまふたたび取り戻し、より豊かな湖づくりに取り組む地域の活動を紹介します。
春号では、琵琶湖・淀川流域における地域の人々による環境保全の動きとともに、外来魚問題を広く伝えようとする市民団体の活動を取材しました。

みんなの琵琶湖にフナやモロコを呼び戻す みんなの力で守るたったひとつの琵琶湖
ブラックバス ブルーギル フナとモロコのイラスト
ブラックバス
1980年頃から急激に増え、
ブルーギルとともに在来種を脅かす外来魚。
ブルーギル
1960年代から琵琶湖に生息し、
現在、もっとも多いとされる外来魚。
イラスト提供:
琵琶湖博物館 うおの会事務局
写真(外来魚)提供:中尾博行氏

琵琶湖があるから、ひとつになれる

琵琶湖・淀川流域には、自然環境について高い問題意識を持ち、地域の保全活動に活躍している多くの人々がいます。これまで、個別に行動し、横のつながりを持たなかった、それらのグループや団体をまとめ、連携を図ろうと設立されたのが、「琵琶湖お魚ネットワーク」です。今回は、ネットワークの代表を務める武田繁さんにお話をうかがいました。

武田さんphoto
活動には、子供時代の友だちと再会するかのように、
魚との出会いを楽しむ熟年層が多く参加すると語る武田さん。

「『琵琶湖お魚ネットワーク』は、琵琶湖流域の人々が手を取り合い、企業や行政と協力しながら、市民参加型の魚類調査を主とした活動によって、身近な生活空間の魚たちの生息状況を調べようという取り組みです。そして、その成果を琵琶湖流域という大きなスケールで集積し、琵琶湖の今≠将来の世代に伝えようとしています」。

2004年の設立以来、お魚ネットワークの調査活動には、300を超える団体が協力しました。「滋賀は、環境先進県だけあって、市民から行政まで、みんなが力を合わせて環境保全に取り組もうという気運が強く、2年間の活動でさまざまな協働や交流を持つことができました。そこには、琵琶湖を守ろう≠ニいう一言で、心が通じ合い、仲間意識が芽生える滋賀ならではの土壌があります。そして、なによりも観察会やイベントが開催できる豊かな自然があり、まだ多くの魚たちが生息し、子どもが安心して遊ぶことのできる河川や水路が残されているのです」。

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出典:琵琶湖お魚ネットワーク報告書(琵琶湖博物館 うおの会事務局)

70家族が集う、ぼてじゃこトラスト

武田さんは、お魚ネットワークを通して流域全体のまとめ役として活躍する一方で、龍谷大学の竺文彦教授が代表を務める「ぼてじゃこトラスト」の事務局の活動を続けています。

ぼてじゃこトラストは、今年で発足から10年目を迎える市民団体です。環境の変化や外来種の増加で激減したぼてじゃこ(タナゴ)の調査を行い、シンポジウムや子どもたちへの啓蒙活動を通じ、琵琶湖・淀川水系の小魚の保全に取り組んでいます。

「『ぼてじゃこトラスト』は、生息調査や研修会、観察会、さらには、さまざまな環境保全活動の支援を行っていますが、子どもたちに琵琶湖の自然を思う存分楽しんでもらうことも取り組みのひとつです。私自身が小さい頃に体験した遊びを、もう一度、現代の子どもたちに伝えたい。貴重な自然環境が、いまも残る田上山周辺などをフィールドに、昆虫を追いかけ、魚をつかまえる楽しさを感じてほしい。環境を学ぶという観点ではなく、川や野山で遊び回ることを通じて、豊かな感性を育み、ふるさとの自然を体の記憶として刻んでほしいと願っています」。

ぼてじゃこトラストでは、昨年から「なまーず」という親子会員を募り、現在は、約20組の親子を含む70家族が登録し、さまざまな活動に参加しています。

親子や家族連れで参加する、ぼてじゃこトラストの会員。
親子や家族連れで参加する、ぼてじゃこトラストの会員。

※「ぼてじゃこトラスト」に関するお問い合わせは、TEL.077-525-8776(事務局・武田)

在来種をおびやかす、外来魚たち

太古から湖や河川に棲むフナやタナゴなどの在来種を守り、琵琶湖の貴重な淡水生態系を取りもどすために2000年から活動を続けている『琵琶湖を戻す会』。琵琶湖外来魚駆除大会を主催する当会の代表、高田昌彦さんに活動内容についてうかがいました。

高田さんphoto
川に入り、フナやタナゴとたわむれる楽しさを知った上で、
駆除活動に参加することが理想と力説する高田さん。

※「琵琶湖を戻す会」に関するお問い合わせは、TEL.090-8527-3752(事務局・高田)

「もともと琵琶湖に棲んでいた魚たちは、1960年代以降の湖岸域の開発やさまざまな環境の変化によって産卵場所や成育の場を失いつつありました。さらに、それに追い討ちをかけるように1980年代にはブルーギルやブラックバスなどの外来魚が爆発的に繁殖し、琵琶湖の在来種は、急激に減少してしまいました。1950年代後半と2000年の琵琶湖の総漁獲量を比較すると、約5分の1にまで落ち込んでいることが判明しています。しかし、これは、あくまでも商業的な漁獲量をベースにしたものであり、漁の対象ではないモロコやぼてじゃこと呼ばれるタナゴの仲間など、身近な魚については、過去の生息データがなく、その多くが、人知れず水辺から姿を消していったと考えられます」。

駆除だけでは学べない自然の大切さ

琵琶湖を戻す会では、2000年から外来魚駆除大会や情報交換会を実施。とくに、毎年、5月の最終日曜日に開催する『琵琶湖外来魚駆除の日』は、家族で楽しめる複合的なイベントとして、多くの参加者で賑わっています。

イベントで外来魚を解剖し、エサが何かを調べる子どもたち。
イベントで外来魚を解剖し、エサが何かを調べる子どもたち。

「私たちの活動は、数名の有志による外来魚駆除の釣りからスタートしました。しかし、実際に取り組んでみると外来魚の多さに圧倒され、個人レベルの行動の限界を思い知らされる結果となりました。そこで、考え方を転換し、より多くの人に外来魚問題を知ってもらうために会を発足し、外来魚駆除大会の実施を決意した経緯があります。したがって、現在の活動も外来魚駆除大会と銘打っていますが、多くの人たちに、いま琵琶湖で何が起こっているのかを実感してもらことを目的に行っています。さらに、私たちがもうひとつこだわっているのは、釣りのスタイルです。駆除大会では、参加者に、かつて琵琶湖でモロコやタナゴを釣ったのべ竿や浮き、ミミズのエサを提供しています。昔とおなじ仕掛けなのに、この広い琵琶湖で釣れる魚が、ブルーギルとブラックバスの2種類だけという不自然な実態を理解してほしいからです」。

昨年、高田さんたちは、琵琶湖と同様に外来魚の大きな影響を受け、天然記念物のイタセンパラの生息が危ぶまれる淀川で、外来魚駆除大会を実施しました。

「淀川でも、流域のさまざまな団体の協力によって、大勢の人々が参加し、釣り大会を実施。今年も4月29日(日)に城北ワンド群周辺で第2回大会を予定しています。毎回、大会に際して、参加してくれた子どもたちに、なぜ、外来魚を駆除しなければならないかを説明しています。しかし、生態系を崩し、在来魚を食べ尽くすとはいえ、駆除を目的とした釣りを通して川や自然に触れることは、ゆがんだ状況です。できることなら、豊かな自然が残る場所で、魚つかみ本来の楽しさを味わうとともに、いつの日か、在来種が泳ぎ回る琵琶湖や淀川が戻ってくることを信じ、ひとり一人の行動によって、それが、今ならまだ間に合うことを学んでほしいと思います」。

今後も、琵琶湖・淀川流域の環境保全の輪が、さらに広がり、より大きな連携の中から、明日の湖づくりをになう子どもたちが育まれるでしょう。


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