みんなの水を考える。

今回のビワズ通信は、私たちの毎日の暮らしに欠かすことのできない水道水にスポットを当てます。今日もなお、地下水を汲み上げ、簡易水道として利用している滋賀県余呉町。一方、高度浄水処理によって最新の水づくりに取り組む大阪市水道局。2つの水事情を通して、水道水のあり方を考えます。

滋賀県最北の町、余呉町にある「淀川の源」。

「淀川の源」の碑淀川の源は琵琶湖というイメージを抱く方も多いでしょうが、実はさらにその北、余呉町を流れる高時川が淀川の本川とされ、福井県との県境に位置する栃の木峠に「淀川の源」の碑が建っています。遠く敦賀の街や日本海を望む緑ゆたかな峰々に降った雨や雪が、高時川の流れとなって琵琶湖に注ぎ、やがて170キロメートル彼方の淀川河口へと続いているのです。

「淀川の源」の碑マップ

山と水の恵みの集落、余呉町中河内、摺墨。

高時川最上流域の集落、中河内を歩いていると川から引いた水路で野菜の土を洗う人の姿と出会うことがあります。さらに摺墨にある高時川中流の支川、摺墨川では、今も川で特産のかぶらを洗い、清涼な水を使って栃の実のアク抜きを行い、トチモチを作っています。この周辺では、古い民家の前には川へ下りて水仕事をするための石段が設けられ、かつては、そこから川の水を汲み、暮らしに必要な水をすべてまかなっていたのです。

地下45mから汲み上げる余呉町の簡易水道。

余呉町では、現在も地下45メートルのところから地下水を汲み上げ簡易水道に使用しています。浄化システムもほとんど使わず、必要最小限の塩素を注入するだけで各家庭に向けて給水を行っています。

今回、取材にご協力いただいた余呉町役場の地域振興課の桐畑係長によると「四季を通じて水量・水質ともに安定しています。そのままでも充分に生活用水として使用できる水ですが、水道法に則して消毒を行っています。この辺りの人々は昔からおいしい水を飲み慣れていますから、原水の味を損なわないようにすることにも気を遣いますね」。

最新のテクノロジーを駆使した浄化システムによって水づくりに努める大都市の水道と比較すると夢のような話ですが、京阪神の水道水の水源をたどると、まさに琵琶湖・淀川水系の源のこの町へと遡るのです。

摺墨川
高時川中流の支川、摺墨川
前で土を落とす
収穫した野菜は、家の前で土を落とす

高時川沿いの民家
栃の木峠にほど近い高時川沿いの民家

琵琶湖へ流入し、大きく変化する水質。

淀川水系の源から流れ出た水は、高時川を経て琵琶湖へと注ぎます。

しかし、1955年(昭和30年)頃から流域の開発などにともない琵琶湖の水質が悪化。とりわけ、前号で紹介したように魚臭やカビ臭を引き起こす淡水赤潮やアオコは浄水処理の大きな障害となっています。

それでは、原水の汚れや臭いの原因をどのように解消して水道水はつくられているのでしょうか。淀川の最下流部にあたる大阪市水道局を取材し、工務部水質試験所の寺嶋副所長にお話をうかがいました。

年度別原水(淀川)水質異変発生件数と浄水処理の変遷

原水の汚れとともに変化する浄水システム。

「まず、時代の流れとともに浄水システムにも歴史があることをご説明します。大阪市の水道は約100年前の1895年(明治28年)に生まれました。当時は琵琶湖から流れてくる淀川の水もきれいで、砂によってろ過(緩速砂ろ過方式)するだけで生活用水としても充分に使用できるものでした。ところが、1950年代になると産業の発達などにともない、河川の水が急速に汚れ始めました」。

それまでの緩速砂ろ過方式は、砂の表面に付着した水中の生物が原水の汚れとなる有機物や細菌を食べ、水を浄化するというシンプルなものでした。しかし、河川の水があまりにも汚れた結果、水中の酸素量が減り、生物による浄化処理が不可能になったのです。

そこで次に、硫酸ばんどなどの薬品を使った凝集沈殿と急速砂ろ過を組み合わせた浄化方式へと移行します。

浄水処理システムの変遷

カビ臭の濃度は、有機物の汚れの100万分の1。

1970年代の中頃になると琵琶湖で大規模な淡水赤潮やアオコが発生します。さらに、1981年以降にはこれらが原因とみられるカビ臭が下流の淀川にまで影響を及ぼします。

「カビ臭の原因となる有機物質の濃度は、通常の汚れの100万分の1ともいわれ、その除去はきわめて難しいものでした。そこで1980年代中頃から高度浄水処理の研究をスタート。その結果、オゾンによって臭いの元を分解し、さらに粒状活性炭に吸着させてカビ臭を完全に取り除くことに成功。2000年からは大阪市全域への給水にこの高度浄水処理が導入されました」。

このような浄水システムの変遷のひとつひとつが、社会や私たちの暮らしがもたらす水の汚れに対する防衛策であったことはいうまでもありません。これからも、さらに高度な浄水処理が求められるか否かは、まさに水道水を必要とする私たち自身の考えや行動に託されているのです。

「淀川の源」から河口までの距離は、果たして、あなたの心にどのように映ったでしょうか。


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