みんなの水を考える。

私たちは毎朝、目覚めると洗面所で顔を洗い、トイレを使い、台所で朝食をつくり、まず水を使うことから一日をスタートします。しかし、使い終わった水の行方について、日々の暮らしの中で考えることは極めて少ないのではないでしょうか。たとえば、台所の排水口から流れ出た水は、どのような経路をたどって下水処理場に到着し、いかなる方法で処理され、川や湖に放流されるのでしょう。今号では、そんな身近な水の旅を見つめながら、さらに大きな水の循環について考えてみたいと思います。

知っていますか、あなたの町の下水道の種類。

あなたは、わが国の下水道が法律によっていくつかの種類に区分されていることをご存知ですか。まず、各家庭や工場、オフィスなどから流れる水を直接、受け入れる下水道を公共下水道といいます。これは、市町村によってつくられ管理されています。そして、公共下水道の中でも下水処理場をもつものと都道府県がつくる流域下水道につながるもの(関連流域下水道)とに分かれます。流域下水道は、2つ以上の市町村の下水を集め、一括して下水処理を行います。広い地域の下水をひとまとめにすることで効率的に処理が行え、川や湖、海などの水質保全が可能になります。また、都道府県が整備するため、市町村単位では財政的、技術的にむずかしい下水道整備がスムーズに進められます。また、この他にも農山漁村や自然保護のために観光地などに設けられる特定環境保全公共下水道などがあります。さらに、この他にも川や湖に放流する汚れの量を大幅に削減する合併処理浄化槽やコミュニティプラントなどがあります。

このようにいくつもの下水道が、地域の地形や人口、自然環境などの条件に応じて整備され、快適な暮らしを実現します。

下水道等の概念図

下水処理の主役をになう微生物。

下水処理場で活躍する微生物下水道を経て処理場へ入った下水は、沈澱池や生物反応漕、急速砂ろ過池などの設備を通ってきれいな処理水へと生まれ変わります。しかし、その中でもあまり知られていないのが微生物による処理の仕組みです。本来、河川・湖沼・海には、汚れをきれいにする自然の働きがあります。これを自浄作用といいますが、今日の下水処理の基本となるのが、自浄作用をヒントに考え出された活性汚泥法と呼ばれるものです。この方法は生物反応漕というタンクの中で微生物を増やし、この時にできる活性汚泥と下水を混ぜ合わせ、さらに酸素を送り込み、下水中の汚物を微生物に食べさせる方法です。ここで大切なことは、微生物も自然界の生き物であるため、その処理能力には限界があることです。

微生物の能力をはるかに超えた量の汚れや、本来、処理することのできない種類の汚れが入ってくると、たちまちパンクしてしまいます。最新の下水処理システムというと化学薬品を投入して、汚れを除去するようなイメージを抱いてしまいますが、実は、自然の力を活かして処理を行っているのです。このことを念頭に、普段からできるだけ水を汚さないように心がけたいですね。

昭和40年代前半の水質レベルをめざして。

昭和40年代前半の水質レベルをめざして。滋賀県では、下水処理場で処理した水は、最終的には琵琶湖へと放流されます。自然環境の保全に加え、琵琶湖の水が水道水の原水として使われることを考え合わせると、よりきれいな処理水にして湖に戻すことが重要な課題となります。そこで、滋賀県では昭和57年より、活性汚泥を使い、嫌気タンク・無酸素タンク・好気タンクを通過させて窒素やリンなどを取り除く高度処理を導入しました。これにより、滋賀県内の下水処理のほとんどが高度処理となり、高度処理人口普及率も全国のトップとなりました。また、琵琶湖・淀川水系の流域にあたる京都府、大阪府もともに上位にランキングされ、下水処理への積極的な取り組みがうか がわれます。滋賀県では、琵琶湖の水質保全を図るために、2010年度までに昭和40年代前半レベルの流入負荷とすることを目標に設定。オゾンの酸化力を活かして現在の高度処理よりも、さらに進んだ超高度処理の導入に着手しようとしています。

高度処理人工普及率ランキング(%)

超高度処理の導入

下水道は”水の旅“のゴール、それともスタート?

このように、私たちが家庭や職場などで使った水は下水道を通って処理場へと向かい、きれいな水に生まれ変わります。毎日の暮らしの中で人間の目線に立って見つめていると、下水道や下水処理場が、水の旅のゴールのように思えます。

しかし、実際には、生まれ変わった水は河川や湖に放流され、水の旅はまだまだ続くのです。 湖の水は、水蒸気になって大気中に蒸発し、やがて雲となり、雨や雪として再び大地に降りてきます。真の水の旅とは、より広い視野に立った地球規模の大きな水の循環に他なりません。

蛇口から勢いよくあふれる水道水も、台所の排水口から流れ出る水も、身近に接する水のすべてが自然界をめぐる旅の途中であること、さらには人間の暮らしそのものが、大きな水の循環に組み込まれていることを、私たちはもう一度、見つめ直さなければいけないのではないでしょうか。

水の循環図


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