琵琶湖・淀川ふれあい紀行

京都から小浜へと向かう国道367号を北上し、梅の木町を西に折れ、約20キロメートルほど行くと朽木村立朽木西小学校があります。学校の前は、何ルートかある鯖街道のうちのひとつ、道をはさんで安曇川の支流、針畑川が流れ、四方を朽木・葛川自然公園の山々に囲まれた素晴らしい環境の中に、山村留学生たちの学舎が立っています。

廃校の危機を救った山村留学。

山村留学とは、都会の子どもたちが親元をはなれ、山村など自然環境の豊かな地域で暮らしながら、その地の学校に通い、さまざまな体験活動をするものです。また、今回、紹介する朽木村では親子での留学を原則とし、家庭のぬくもりと地域の人たちとのふれあいによって、より良い成長をめざすことを大きな特徴としています。 朽木西小学校が、はじめて山村留学生を受け入れたのは、平成12年春のことでした。過疎による児童の減少によって小学校が休校や廃校に追い込まれることを危惧した地域の人たちの想いもあって、村の教育委員会が山村留学生の募集に踏み切ったのでした。

「自然しかないこんな田舎に親子で移り住む人がいるやろか」。そんな不安を打ち消すかのように参加希望家族が現れ、第一回目の山村留学生8人が、西小学校に入学することになったのです。幸い、地元最後の児童が卒業する平成12年春から初めての山村留学生がやってくることになり、西小学校は、休校することなく、今日に至っているのです。

風景

針畑川で特大アブラハヤが釣れた。

西小学校の全児童数は4人。すべてが山村留学の児童です。校長先生と3人の先生が授業や指導にあたっていますから、いわばマン・ツー・マン体制です。取材中に気づいたのは、授業の始まりや終わりを告げるチャイムが一切、鳴らないこと。さっそく、先生方にたずねてみると「チャイムはありますが、鳴らしていません」という答えでした。授業はノーチャイムで進められ、1時間で終わることもあれば、児童のペースに合わせて90 分続けることもあるそうです。お弁当も全員が食べ終わるまで、他の子どもたちは体育館やグランドで遊びながら午後からの授業を待ちます。現在、最上級生は 5年生女子の中河郁さんと梅原毬代さん。次に4年生男子の中河哲郎くん(郁さんの弟)。そして、この春に入学したばかりの奥村寛斗くんです。ようやく男子の遊び仲間ができた哲郎くんは、大の釣り好き。先日も学校の前の針畑川でセンチのアブラハヤを釣り上げました。「エサは川でつかまえたチョロムシやカワムシ。ハヤが10センチ以上になるのはまれだから、すごい大物なんだ!」。
今は新1年生の寛斗くんを引き連れて、針畑川のポイント攻略に大忙しです。

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みんなのスペシャル・ゲスト・ティーチャー。

取材当日、山菜採りとわさび漬けの作り方を指導に来られていたのは、学校のお隣に住む森本綾子さん。隣といっても学校とは約200メートルほど離れていますが、子どもたちは森本のおばあちゃんが大好きです。裏庭の鯉を見に行ったり、バザーに出すトチモチの作り方を教わったり。また、森本さんも家事や畑仕事の合間を見ては学校をたずねて、子どもや先生と歓談するのが楽しみです。「ほんまの孫みたいにかわいいな。ひとりひとりいろんなことを聞きに来るけど、この子らに教えられたり、感心させられることもたくさんあります。この間も、郁ちゃんがトチの実でおいしいクッキーをこしらえたのにびっくり。私らは、トチの実というとモチしか頭にありませんけどな(笑)」。森本さんが小学生の頃の遠足は、山向こうの福井県へ歩いて出かけたといいます。また、昔は小浜から焼き鯖や塩鯖などの荷を背負った商人が訪れ、このあたりも活気にあふれる村でした。このように山里の暮らしを伝え、地域の歴史や文化を教えてくれるお年寄りは、子どもたちはもとより、学校にとってもかけがえのないスペシャル・ゲスト・ティーチャーです。

風景

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地域ぐるみで取り組む子育て。

朽木西小学校では年3回、学区の大人たちと児童がいっしょに参加する行事があります。その中でも謝恩祭は、子どもたちが日頃からお世話になっている村の人たちに授業のようすや劇などを見てもらう地域あげての参観日です。このような近隣の人々との交流について橋本校長にうかがいました。 「長年にわたって、ここで暮らす人たちにとって小学校は、村の子どもを育て、数多くの巣立ちを見守ってきた教育の場であるとともに、地域の交流を支える文化施設でもあったのです。学校に対するみなさまの思い入れがあったからこそ、今日の山村留学があります。学区の方々が、地域ぐるみで子育てに参加していただくことで児童たちも素直にすくすくと成長しています。また、地域に子どもの姿があるということで、人も地域も元気づけられるところがあるのではないでしょうか」。

朽木村の緑豊かな自然環境の中、4人の子どもたちは地域の大切な宝ものとして、これからものびやかに成長し、やがて、この小学校からたくましく巣立っていくことでしょう。

問い合わせ先‥朽木村教育委員会
電話 0740-38-2324


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