オランダ堰堤に行こう。【大津市上田上桐生】

琵琶湖・淀川水系には、明治から大正時代にかけて、砂防や治水、利水のためにつくられたいくつもの土木遺産がのこされています。
今号のビワズ通信では、春号に引き続き、オランダ人技師、デ・レーケの足跡を訪ね、今も往時のままの姿で砂防ダムの役割を果たし、緑豊かな自然休養林の中の親水空間として広く親しまれているオランダ堰堤をご紹介します。

オランダ堰堤周辺
オランダ堰堤周辺は、
心地よい親水空間として人気があります。
アクセスマップ
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コースガイド
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デ・レーケが実践した「治水は治山にあり」。

春号『淀川のワンドに行こう』でご紹介したように、大阪湾に新しい港をつくり、淀川を大型船が往来できる川にするために、明治6年(1873)、オランダからヨハネス・デ・レーケらの技師団が招かれました。淀川のようすを調べたデ・レーケは、港や河川改修に先立って上流の治山が先決であると考えます。

その理由のひとつは、淀川上流にあたる大津市の田上山一帯の荒廃にありました。かつてのスギやヒノキの美林は、古く奈良や平安時代より寺院・仏閣の造営に伐り出され、明治維新後も建材や産業資材を得るために乱伐が続き、山々には木々がなくなっていました。また、この辺りの山地はもろい花崗岩でできているため、保水力を失った山から一気に流れ出る雨水によって、岩は削り取られて真砂となり、洪水時には川筋に大きな被害をもたらしていました。さらに、川の水によって運ばれた土砂が、淀川下流や河口部に堆積し、水上交通を困難なものにしていたのです。

そこでデ・レーケは、山から川へ土砂が流れないように食い止めると同時に、荒廃した山に新たに木を植えるという2つの方法で治山治水を行いました。

デ・レーケの胸像
オランダ堰堤の横に立つデ・レーケの胸像。
昭和30年頃の金勝山国有林
荒廃状態にある昭和30年頃の金勝(こんぜ)山国有林。白い部分は裸地。

人々の暮らしを守った デ・レーケの功績。

オランダ堰堤周辺は、現在では国有林を一般に開放した自然休養林(一丈野地区)として人々の憩いの場となっています。その自然休養林で滋賀森林管理署の委託を受け、自らの私有地と国有林を合わせた一丈野キャンプ場を運営・管理する山本喜重郎さんにお話をうかがいました。

●山本さんは明治45年のお生まれですが、昔のオランダ堰堤はどんな場所でしたか。

地元の者はオランダ堰堤のことを砂どめと読んでいました。子どもたちは「砂どめへ遊びに行こうよ!」とよく泳ぎに行ったものです。当時は水量も多く、すぐ下が滝壺のようでしたから堰堤から飛び込んで遊びました。小学校の3年になったら何段目、6年生は最上段からというふうに子ども同士の取り決めがあってみんな競い合って飛び込みました。

●この辺りは、たびたび洪水被害に見舞われたのでしょうか。

親父からよく聞かされたのは、ひと度、川が氾濫すると土砂水がすごい勢いで押し寄せて、農地はほとんど砂で埋没したということでした。ですから、桐生の村では高い場所にある家ほど古い。オランダ堰堤ができてからは、それほど大きな被害もなく、村人は随分助かったと聞いています。

●そうすると、デ・レーケは村の人々にとって恩人ですね。

大恩人ですよ。桐生だけでなく、天神川でも鎧ダムをつくったので、この近隣の人々は子々孫々にわたり、デ・レーケさんには心から感謝しています。7年前には日本とオランダの修好400年の記念行事が堰堤の横で催され、デ・レーケさんのお孫さんが来られましたが、私たちも恩人に再会したような気持ちになりました。

山本さん
老人クラブの会長として河川清掃にも力を入れる山本さん。
一丈野キャンプ場付近
一丈野キャンプ場付近の雄大な眺望。

植林によって甦った一丈野地区の森林。

草津川
清らかな水をたたえ、キャンプ場を流れる草津川。

●かつての荒廃していた山も、今は緑豊かな森林に生まれ変わりましたね。

明治時代から植林が行われ、私も子どもの頃は芝運びを手伝いました。山に畑のうねのようなものを作り、そこに芝を張るわけです。 何年か経つと、そこから草や木が生え、やがて雑木林になる。当時で1日20銭くらいの手当が貰えたと記憶しています。このような長年にわたる植林のおかげでようやく緑を取り戻すことができたわけです。

●この一丈野キャンプ場は広々として野外活動には最適ですね。

川の水も空気もきれいで、みなさんに自然の素晴らしさを満喫していただいています。また、この周辺には歴史遺産も点在していますから、湖南アルプスのハイキングコースとしても親しまれています。
 さらに、6月には身障者の方にも車イスで約1キロの道程を巡っていただける遊歩道も整備されました。キャンプ場は、学生やボーイスカウトのみなさんをはじめ、家族連れの方々にもよく利用していただいています。森林管理署との共同管理ですから山でのルールやマナーはしっかりと守っていただきますが、豊かな自然の中でキャンプ本来の楽しさを味わっていただける貴重な野外活動の拠点だと思います。

西村凌汰くん
草津市からやってきた
昆虫大好き少年、西村凌汰くん。
トカゲ
本日いちばんの出会いは、
かわいい小型のトカゲ。
一丈野キャンプ場
デイキャンプなら400人が利用できる
一丈野キャンプ場。

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