身近な水環境を調べ、水の大切さを学ぼう

今シーズンのビワズ通信は、さまざまな分野で始まっている環境保全への取り組みに注目し、 活動にたずさわる人々の想いを紹介します。今号では、2004年からスタートし、滋賀県でも大きな広がりをみせる『身近な水環境の全国一斉調査』についてレポートしました。50年後、100年後の環境保全の礎となる調査の意義などについて探ってみましょう。

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試験薬による水の色変化で水質を測定するため、あらかじめ水温を測り、
発色までの時間を決め、標準色と比較して成分の濃度をチェックします。

身近な水域調査を住民の力

私たちが、日頃、暮らしの中で何気なく目にしている湖や河川、ため池、そして、大小の水路。そんな身近な水が、いま、どのような水質なのかを知りたいと思ったことはありませんか。2004年からスタートした『身近な水環境の全国一斉調査』は、水に関心をもつ住民の協力によって、全国各地で一斉に水質を調べ、各地の水環境マップを作製しようとする取り組みです。

今回は、全国水環境マップ実行委員として調査をサポートするとともに、滋賀県内の教育機関などを巡り、参加の呼びかけに尽力する「NPO法人蒲生野考現倶楽部」の山崎久勝さんにお話をうかがいました。まず、『身近な水環境の全国一斉調査』の目的や調査内容についてお聞きしました。

山崎久勝さん
子供たちを前に、分かりやすく水質に ついて語る山崎久勝さん

「全国の水質調査については、従来から国や自治体などが観測ポイントを定め、正確なデータを蓄積しています。ところが、ため池や水路など、私たちにとって、より身近な水域では、これまで市町村や学校などによる個別の水質調査は行われていても、各地の結果を比較できるような全国規模での調査は実施されていませんでした。そこで、国土交通省河川局と河川環境管理財団が中心となって、住民団体やNPO、学校のエコクラブ、さらには個人の参加も募り、2004年から身近な水環境に焦点を絞った全国一斉調査がスタートしました。いわば、住民の協力を得て、全国各地の暮らしに近い水辺の状況をきめ細かく調べ、その結果を分かりやすいマップにまとめようというものです。また、この調査を通して、住民一人ひとりが、水環境への理解と関心を深めることにも大きな期待を寄せています。実施日は、毎年、『世界環境デー』に近い日曜日とし、今年は6月4日に大勢の住民が参加して調査が行われました」。

精度の向上に向けたきめ細かな測定方法

『身近な水環境の全国一斉調査』では、水質の測定場所は参加者に一任されています。普段から気になる場所や関心のある水域を選び、それをあらかじめ事務局に申請します。また、水質測定には扱いやすい調査キットを使用しますが、精度の高い結果を得るために、測定方法はきめ細かく定められています。

「せっかく全国規模で一斉に調査するわけですから、できるだけ正しいデータを出し、各地の結果を比較できるよう努めています。まず、参加申込者には調査マニュアルと調査キットを配布し、全員が決められたマニュアルにより、同じ器具や薬品を使い調査します。採水については、生活排水などの影響を受けることを考慮し、午前中に採取した水を測定するように定めています。測定は必ず3回行い、その中央値を測定データとして事務局に報告することとしています。このように測定方法を厳密に決めることによって調査結果が、より信頼できるものとなって、毎年、積み上げられていくのです」。

水質測定キット
参加者全員に配布される水質測定キット
一斉調査のようす
2005年に実施された全国一斉調査のようす
(写真提供:全国水環境マップ実行委員会事務局)

全国3位を誇る滋賀県の参加実績

『身近な水環境の全国一斉調査』は、2004年のスタート以来、大きな反響を呼び、年々、参加者が増える傾向にあります。昨年、実施された第2回の一斉調査では、全国で第一回の2倍にあたる1000団体(個人参加者を含む)が参加し、調査地点数は5018地点に上りました。その中でも、滋賀県は472地点を調査し、全国でも3番目に多いデータを残しました。このような参加状況からも、滋賀県の人々の水との関わりの深さや感心の大きさが分かります。

50年、100年後の環境保全に向けて

これからの『身近な水環境の全国一斉調査』への想いを、山崎さんは次のように語ってくれました。 「この調査が始まるまでは、身近な水域について比較検討するデータがなかったわけですから、2004年の第1回調査は、いわば100年の計への第一歩です。今後、この一斉調査を積み重ねることによって、自分たちの周りの水環境が10年前より悪化したのか、あるいは、みんなの努力によってきれいになったのか、しっかりとした裏付けによって議論できるようになる。これは、今後の環境保全にとってとても大きな意味をもつと思います。そして、もうひとつは、調査に参加してくれた人たちが、全国水環境マップのポイントを見て、この調査に携わった喜びを実感し、水への関心をより強く持ってくれること。さらには、調査を通して、小学生や中学生が自然科学に目覚め、将来の地球環境を守るかけがえのない人材に育ってくれれば、これほど嬉しいことはありません」。  このように、全国の実行委員のみなさんの地道な努力によって、『身近な水環境の全国一斉調査』は、わが国の環境保全に欠かすことのできない、有意義な取り組みとして、これからも大きな広がりをみせることでしょう。

水質測定キット
地図をクリックすると拡大表示されます
一斉調査のようす
地図をクリックすると拡大表示されます

※ このマップは、平成17年6月5日を中心に全国の市民団体等が実施した簡易な調査に基づくものです。調査地点の選定も調査主体が独自に行っており、また調査も一度限りですので、このマップのデータがその河川の水質を必ずしも代表するものではありません。

『身近な水環境の全国一斉調査』に関する問い合わせ先
財団法人 河川環境管理財団内 全国水環境マップ実行委員会 事務局
〒103-0001 東京都中央区日本橋小伝馬町11-9 財団法人 河川環境管理財団内
TEL.03-5847-8303 http://www3.tky.3web.ne.jp/~sarahh/issei/index.html

水の汚れがわかるCOD

水中に強い酸化剤を入れると、有機物などの汚れに付いて、酸素を与える役目を果たします。汚れが多いほど酸化剤が減るため、その量を測定すると、水に含まれている汚れをおおまかに数値で表すことができます。CODとは、汚れによって使われた酸化剤の量であり、CODが高いほど汚れが多いということになります。

水質調査っておもしろい!

図安曇小学校では総合学習の一環として、山崎さんを招いて、水質の正しい測定方法を勉強しました。大半の児童は初めての体験でしたが、山崎さんの指導を受けて、測定にチャレンジ。試験薬による水の色変化を真剣な眼差しでチェックしながら、身近な安曇川の水質に大きな関心を寄せていました。

きれいな琵琶湖を孫やひ孫の世代へ

水と人今回は、野洲市菖蒲地区で、田んぼに魚道を設け、琵琶湖の魚を呼び戻す『魚のゆりかご水田プロジェクト』に取り組む菖蒲農業組合の松沢組合長にお話をうかがいました。

松沢組合長の写真
仲野 晋(なかの・すすむ)さん

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「私は、4年前から毎年、滋賀県の水産課とともに10反の田んぼに約3万尾のニゴロブナを放流する試みを続けてきました。今回、『魚のゆりかご水田プロジェクト』を本格的にスタートしたのは、この経験を活かせるのではないかと考えたことが、大きなきっかけでした」。

菖蒲に生まれ育ち、子供の頃から琵琶湖の自然に親しんできた松沢さんは、これまでも環境保全に 積極的に関わってきました。

「琵琶湖にいちばん近い農業家が自然を汚してはならないという気持ちから、菖蒲地区では、泥水を流す原因となる水路の底打ち(川底のコンクリート張り)は一切行わず、つねに水質保全を意識してきました。昭和30年代から農業に携わってきた私にとって、自らの世代一代で琵琶湖の姿がここまで変わってしまったことに大きな悔いを感じています。だからこそ、このプロジェクトには地域ぐるみで取り組み、世代を超えた多くの人に関わってほしい」。

松沢さんの想いに共感した近隣の農家の人たちもプロジェクトを支えています。

「この取り組みの成果が得られるには、長い時間がかかるかもしれませんが、よりきれいな琵琶湖を次世代に手渡す活動を、仲間で力を合わせて継続していきたいと考えています」

菖蒲地区のみなさんの努力に応えるように、昨年に引き続き、今年も田んぼの水路にはニゴロブナやギンブナなどが遡上し、自然観察会を通して、多くの子ども達が自然の大切さを感じ取りました。

※反は土地面積の単位で1反は約991.71反は約991.7m²


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