みんなの力で守る たったひとつの琵琶湖

今シーズンのビワズ通信は、さまざまな分野で始まっている環境保全への取り組みに注目し、活動にたずさわる人々の想いを紹介します。
今号では、琵琶湖・淀川水系を世界的に貴重な淡水生態系としてとらえ、その保全に向け、『びわ湖生命の水プロジェクト』を立ち上げたWWFジャパンと株式会社ブリヂストンを取材し、活動の意義や地域の人々の反響についてうかがいました。

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世界に誇れる、豊かな自然と人の調和

パンダのシンボル・マークで知られるWWF(世界自然保護基金)。その世界最大の民間保護団体が、私たちにとって身近な琵琶湖・淀川水系の流域全体を淡水生態系保全のモデル地域に指定し、保全活動を続けていることをご存知でしょうか。

WWFジャパン自然保護室長の岡安直比さんに、取り組みの主旨や内容についてお話いただきました。
「まず、WWFについて、世界各国で絶滅の危機にある動物の保護活動を行っている団体とお考えの方が多いと思います。しかし、私たちは、単に動物だけではなく、森や海や湖など、生き物が生息する自然環境すべてを守るとともに、そこに暮らす人々の生活をも考えた取り組みを続けています。この観点からすると、琵琶湖・淀川水系は、ここにしか棲まない固有の魚たちが、数百万年にわたってバランスを保ちながら生き続けてきた、きわめて貴重な生態系といえます。また、もうひとつ重要なことは、この豊かな自然によって農作物や魚などの食物がもたらされ、特異な生態系と上手に調和しながら、人の暮らしが息づき、文化が培われてきたこと。さらに、その伝統が地域の人々によって大切に守り続けられ、今日も残っていることです」。

地域の力を集めた世界レベルのプロジェクト

岡安室長
パンダマークの前でプロジェクトについて語る岡安室長

琵琶湖・淀川水系の生態系に注目したWWFでは、2003年から市民参加による魚類調査の準備を琵琶湖博物館の協力のもと進めていました。一方、滋賀県彦根市にタイヤ生産の拠点を置くブリヂストンでは、地域貢献の一環として琵琶湖の環境保全に役立ち、社員も参加できる新たな取り組みを探していました。

「私たちが市民モニタリングを計画しているちょうどその時、ブリヂストンから琵琶湖の保全活動に関する相談が寄せられました。お互いの想いを話し合ううちに、両者が力を合わせることで実現できる、より広がりのある保全活動のプランが見えてきました。そこで、WWFとブリヂストンが共同で、ひとつの取り組みに乗り出すこととなりました。それが、『びわ湖生命の水プロジェクト』の始まりです。このプロジェクトは、地域住民をはじめ、多くの方々に参加を呼びかけ、自然観察会という形を取りながら、琵琶湖や身近な河川に、どんな魚たちが、どれくらい棲んでいるのかを調査することを主な活動内容とするものです。この取り組みを通じて、琵琶湖を守るために、自然の仕組みやその中の生き物について広く知ってもらうことが大きな狙いでした」 。

そして、2004年9月、『びわ湖生命の水プロジェクト』のスタートを機に、これまで琵琶湖・淀川流域で保全活動に携わってきた数多くの団体や魚に詳しい地元の人たちを組織化する『琵琶湖お魚ネットワーク』が設立されました。自然観察会には、このネットワークから魚の専門家がボランティアとして参加し、さまざまな知識や魚の見分け方、さらには、調査結果を正しくカードに記入する方法をアドバイス。それによって、自然観察会で一般参加者が集めた多くの情報が、ネットワークの事務局である『琵琶湖博物館うおの会』によって、科学的なデータとしてまとめられ、次代の琵琶湖を守るための重要な資料として構築される大きな流れが形づくられました。岡安室長は、今回のプロジェクトについて次のように語ってくれました。「『びわ湖生命の水プロジェクト』の最大の特徴は、『琵琶湖お魚ネットワーク』が土台となっていることからも分かるように、地域住民はもとより、企業や行政、教育機関、研究者、NGOなど、琵琶湖にかかわる多くの人たちが、それぞれの立場や能力を活かしながら、保全に向けて積極的に協力し合っていることです。みんなの力を合わせて、かけがえのない琵琶湖・淀川の生態系を守ろうとする地域の心意気が強く伝わってきます。そういう意味でも、このプロジェクトが世界に発信できる環境保全のモデルとして、さらなる広がりをみせることに大きな期待を寄せています」。

パートナー企業の新たな取り組み

WWFでは、『びわ湖生命の水プロジェクト』の大きなねらいとして、現在の琵琶湖の環境を見渡すとともに、ブリヂストン彦根工場を活動拠点として、企業と地域との関係づくりをすすめています。

藤田一彦課長(左)と安田善治さん(右)
牽引役となったブリヂストン彦根工場環境保全課の
藤田一彦課長(左)と安田善治さん(右)

また、このプロジェクトのパートナーとなるブリヂストンでは、企業として単に資金援助だけでなく、社員の参加という人的支援を積極的に打ち出しています。

取り組みのスタートに際しては、琵琶湖周辺の自然を描いた記録映画を上映し、環境への関心を高めるとともに、WWFのスタッフによる講習会を通して、社員自らが取り組みの目的や内容を学ぶことから始めました。

さらに、自然観察会には、社員だけでなく、家族や子どもたちも参加し、川に入って魚をつかんだり、さまざまな生き物を観察し、普段は触れることのない地域の自然の中で新たな感動を体験しています。

自然観察会で採捕した魚
社員食堂近くに設置された水槽には
自然観察会で採捕した魚が泳ぐ

次代へ受け継がれる琵琶湖への想い

『びわ湖生命の水プロジェクト』では、発足当初、年間8回の自然観察会の開催を予定していましたが、各方面からの申し入れが相次ぎ、2006年8月末までに、周辺の市町村で『琵琶湖お魚ネットワーク』の調査がかかわったイベントは、200回以上を数えました。また、ネットワーク事務局には6000カ所を超える地点について、地域住民の手によって記入された調査カードが寄せられました。

予想をはるかに上回る地域の反響について、WWFの岡安室長は、大きな手応えを実感しています。

「私たちは、日本各地で環境保全に取り組んでいますが、琵琶湖周辺の地域の方々には特別なパワーを感じています。子どもの頃に川や湖で泳いだ経験や遊びの中で学んだ自然の知識が体の中に蓄えられ、今も脈々と流れている。だからこそ、環境の変化を敏感に感じ取り、自然といかに共存していくのかを真剣に考えています。まさに、今回のプロジェクトの高まりは、地元の方の強い意欲や活力に支えられているのです」。

これからも地域で開催される自然観察会やイベントを通じ、田んぼや川が琵琶湖とつながっていることを知り、子どもたちが身近な水環境を自然の大きな輪の一部として意識することで、生命の湖は豊かさを取り戻し、次代へと受け継がれることでしょう。

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