よみがえれ、琵琶湖のゆりかご、南湖【南湖再生への取り組み】

今シーズンのビワズ通信は、人と湖と魚たちとの関係を取り戻し、より豊かな湖をつくろうとする地域の活動を紹介しています。
冬号では、かつてはセタシジミの格好の漁場であり、ホンモロコやニゴロブナの産卵に適した豊かな水域だった南湖の復活をかけ、国や自治体、地域、企業がしっかりとスクラムを組んだ「南湖再生への取り組み」についてご紹介します。

よみがえれ、琵琶湖のゆりかご、南湖【南湖再生への取り組み】
ふ化直後より湖底で生活するホンモロコの稚魚にとって砂地は成長に欠かせない環境です。

琵琶湖のゆりかごと謳われる南湖

まず、南湖とは琵琶湖大橋が架かる湖の最も狭い部分から南側を指します。その面積は北湖のわずか11分の1に過ぎず、水量については北湖の273億トンに対して、南湖は2億トンと北湖の1パーセントにも満たない水の量です。さらに、北湖の平均水深約43メートルに比べ、南湖は約4メートルときわめて浅い水域といえます。しかし、太古から南湖はさまざまな魚の産卵・成育に欠かせないエリアとして知られ琵琶湖のゆりかごと呼ばれています。

ホンモロコを例にとると北湖で成魚に育つと2月頃からゆっくりと南に移動し、春には南湖にやって来て岸辺などに産卵します。4〜6月にふ化し、一定の大きさに育った稚魚は、やがて成育しながら南湖から北湖へと向かいます。かつては、3月頃になると産卵のために移動する魚を求めてホンモロコ漁の船が、琵琶湖中から南湖の北方に集結しました。また、南湖はシジミ漁の漁場としても活況を呈し、昭和32年には、約6000トンを超える漁獲量の6〜8割が狭い南湖で獲れました。しかし、昭和30年代頃から水質が悪化し、さまざまな環境が変化すると、南湖は次第にその豊かさを失っていきました。

国家的プロジェクトを受けた再生への取り組み

現在の南湖は外来種の増加も加わり、生態系は危機的状況にあるといわれています。

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そこで国や自治体が連携し、南湖の復活に向けた道を拓こうと平成18年12月にスタートしたのが南湖再生への取り組みです。これは、国の都市再生本部の設置に端を発し、平成15年に閣議決定された『琵琶湖淀川流域圏の再生』を受けて設けられた再生推進協議会の中の『水辺の生態系保全再生・ネットワーク分科会』の活動のひとつです。この活動には、国・県・関係自治体の各機関が参加。平成18年より会議を開き、再生に向けた動きや連携について話し合うとともに、活発な情報交換を行っています。

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湖底の耕うんに使用する貝曳き漁具マンガン
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耕うんと同時に行われる水草の除去作業のようす

魚介類のための貴重な生息環境を回復

南湖再生への取り組み事業のひとつとして、滋賀県、水産庁、水資源機構、国土交通省が連携し、平成18年より『南湖湖底環境改善事業』が始まっています。取り組みの中心となる滋賀県の農政水産部水産課の藤原公一参事にお話をうかがいました。

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南湖再生への想いを語る滋賀県水産課の藤原公一参事

「いま、私たちが取り組んでいるのは、セタシジミが棲み、ホンモロコが繁殖できるような、かつての南湖に近い環境を取り戻すための2つの事業です。まず、ひとつ目はセタシジミやホンモロコの産卵・成育に欠かせない砂地を増やす取り組みです。南湖では昭和44年に719ヘクタールあった砂地が、平成元年には151ヘクタールにまで減少。そのため、水産庁の委託を受けて滋賀県と滋賀県漁業協同組合連合会が主体となってマンガンとよばれる貝曳き漁具を使って、湖底を掘り起こし、かつての砂地に戻す作業を進めています。さらに、この作業は湖底の耕うんと同時に、異常繁茂によって魚介類の生息環境にさまざまな悪影響を及ぼしている水草を除去することでき、豊かな漁場を取り戻すために一石二鳥の成果が期待できます。そして、2つ目は、ヨシ帯の沖において、既存の砂地と湖底の耕うんによって回復した砂地に連なる湖底に新しい砂を入れる事業です。この覆砂という取り組みによりセタシジミの生息空間を広げ、またヨシ帯でふ化したホンモロコが成育しながらスムーズに沖合いへ移動できるようになります。覆砂事業は滋賀県が実施し、覆砂に使用する砂は、国土交通省が瀬田川を浚渫したものを有効活用、それぞれの連携によって事業が着々と進行しています。」

計画では、湖底耕うん事業によって120ヘクタールの砂地を回復させ、覆砂事業で64ヘクタールの砂地を造成。併せて昭和44年当時の約半分にあたる335ヘクタールの砂地を取り戻すことを目標としています。さらに、平成17年に約160トンだったセタシジミの漁獲量を平成30年には倍の320トンとし、そのうちの160トンを南湖で水揚げすることを目標にしています。

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官民一体となった新浜うおじまプロジェクト(

水資源機構では、近江大橋の東岸にある新浜地区の管理用地にコイ科魚類等の産卵・成育の場となる田んぼ池(ビオトープ等)をつくる『新浜うおじまプロジェクト』に取り組んでいます。

プロジェクトの用地となるのは、土砂などの仮置き場として水資源機構が所管している約5ヘクタールの広さの土地ですが、以前から草津市と新浜自治会から景観整備や有効活用の要望が寄せられていました。さらに、幹線道路をはさんだ用地のすぐ東側にはイオンモール株式会社による大型ショッピングセンターの出店が計画されていました。

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新浜うおじまプロジェクト整備計画平面図

かねてより環境保全に大きな関心を持ち、琵琶湖畔にほど近い場所への出店に際し、地域や琵琶湖の自然環境に貢献できる企業活動を検討していた同社は、地域の人々が集い、子供たちが水辺の自然に触れることのできるビオトープを中心としたこのプロジェクトに参画することとしました。

)うおじまとは、かつて琵琶湖では、産卵のために湖岸に大挙してやってくる魚の群れが、島のように見えたことを指した言葉です。

生命のゆりかごを目ざす、南湖初の田んぼ池

約5ヘクタールの土地の半分を占める田んぼ池には琵琶湖の水を引き込み、魚がそ上できるように魚道を設けました。また、外来魚の侵入を防ぐために20センチの段差をもつ階段式の魚道とし、3月にはビオトープの完成を予定しています。

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着々と整備が進む新浜うおじまプロジェクトの田んぼ池

すでに国土交通省琵琶湖河川事務所によって周辺湖岸での産卵調査が行われ、コイやフナの産卵も確認されています。運用開始後は、地域にも呼びかけ、自然観察会の開催を計画しています。

これまでビワズ通信でも、北湖の高島市などで実施している魚をふやす取り組みを紹介してきましたが、『新浜うおじまプロジェクト』は、南湖で初めての取り組みとなります。北湖での結果と併せて、新浜での活動によって得たデータを琵琶湖の固有種や在来魚の回復に役立てるとともに、南湖の再生を目ざします。

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プロジェクトの推進を担当する(独)水資源機構 琵琶湖開発総合管理所の
小島湖南管理所長(左)と杉村環境課長(右)


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