第15回懇談会 (発表-1)森林(やま)は川の母親 詳細

森林(やま)は川の母親
加美町長 戸田善規氏

本日の発表タイトルを「森林は川の母親」とさせて頂きました。このタイトルの由来ですが、一昨年に淡路で開催された「ひょうご森の祭典」に参加した際、淡路の漁民の方がおっしゃった「山は海の恋人だ」という言葉が記憶にあったからです。「山で培われた腐葉土は良い水を造り出し、川を通じて養分を運び、それが海や魚に好影響をもたらす」とお話されていたことを思い出し、海に対して恋人であるならば、逆に山は川の母親ではないだろうかと思い、このようなタイトルにしました。

加美町について

  • 播磨の最北端、但馬・丹波との境に位置しています。人口7,600人、面積84km2と典型的な農山村であると言えます。基幹産業は農業・林業・織物業の3つでしたが、現在は長期低迷という状況であり、過去形でしか表現できないというのが実態かと思っております。
  • 全町で下水道が完備されており、平成5年には既に水洗化がなされていました。それを機に女性の方々により「隣の町にきれいな水を流そう」という住民運動が展開されました。

森林の概況

  • 総面積8,406haのうち森林が占める面積が7,137ha、林野率にして85%となる典型的な山の町といえます。そのうち人工林が5,416haで76%を占め、スギが約3割弱、ヒノキが7割強であり、針葉樹が多く広葉樹が少ないという特徴があります。
  • 加美町の林業の起こりは江戸時代に農業の傍らに造林を始めたと伝えられており農民林業であったと思います。明治時代では舟板材が昭和初期には電柱材としての素材生産が盛んに行われていました。
  • 加美町林業の特長としては、まず戦後の造林地が非常に多く要間伐林が5割強を占めています。そして針葉樹が多く広葉樹が少ないため、保水能力に疑義が持たれています。また個人有林より集落有林の方が若干多く、加美町でまだ山が守られているという大きな要因となっています。

森林の施業について

  • 下刈・つる切り・除伐・枝打・間伐といった作業が保育という一連の過程になります。そして最後に皆伐し搬出、整地を行います。
  • 保育の作業は1回きりではありません。かなりの手を入れなければ木は育たない、山は守れないということになります。しかしながら手を入れて山を守っても木は売れません。これが現在の実態です。そうなると山を見捨ててしまう、山に無関心になってくるという傾向に向かってしまいます。
下刈り
【下刈】木の根元の下草を刈ります
間伐
【間伐】混みすぎた木を間引きます

全国の森林を巡る一連の動き

  • 外材の侵入、山林労務者の高齢化と減少、木材価格の低下等が要因となって「林業はもはや産業として成り立たない」という厳しい認識をしています。

森林に見られる最近の傾向

  • 放置山林が急増し森林の荒廃に繋がっています。そして森林への無関心が森林の荒廃に拍車をかけていると言えます。さらに山林管理は重労働であり、若手の後継者の育成が急務であると思います。
  • このような森林の現状から森林の持つ水源涵養機能(保水力)は間違いなく低下しつつあります。また山林災害(自然災害)の可能性が高まっており、山村では「森林の荒廃は山村住民だけでは防げない」という共通の認識を持っています。

森林・林業基本法の制定

  • 平成13年7月に森林・林業基本法が制定され、基本理念として「林業の有する多面的機能の発揮」、「林業の持続的かつ健全な発展」、「その他の施策の方向性の提示」が挙げられています。
  • 具体的な施策が示されるのは、今後森林・林業基本計画が策定されてからになりますが、いずれにしても財源措置をして頂かないと山を守っていくことは非常に難しいということを認識頂きたいのです。つまり森林に関する権「ゲン」が町に与えられても、財「ゲン」と人「ゲン」がないというのが山村の実態であるということを認識頂きたいと思います。

むすび

森林を効率性だけで考えないでほしいと思います。地下足袋でなければ歩けないような非効率な道でも、それがなければ山は守れないのです。

加古川という同じ一つの水系である以上、上流と下流とを2つに分ける要素はないのですから、流域という考え方を持って頂き、山林を所有する町だけではなく、下流の皆さん方と共に山を守らせて頂きたいと願います。


質疑・応答

Q 環境認証と市場流通(横山委員)
FSCというメキシコに本部を置く世界的な森林の環境認証があり、林業の振興地域から生産された木材にはFSC認証を付けて市場流通の便宜を図ろうとしています。加美町ではFSC認証についてどのように考えられているのでしょうか。
A 流通促進のための取り組み(戸田委員):

認証制度については私自身の勉強が至っておりませんので、そのような認証制度があるならば使えればいいなというのが現状です。ただ間伐材搬出の問題に精力を注いでいるというのが実態であり、新しいエネルギービジョンである木質のバイオマスという形の検討を始めさせて頂いています。

Q 森林ボランティアについて(横山委員)
加美町の林業の実態から考え、都市住民の森林ボランティアとの共同作業の係わりについて前向きな検討がなされているのか、あるいは問題点等があればお聞かせ頂きたいと思います。
A ボランティアの現状と体験学習(戸田委員):

加美町でもボランティアの方に参加頂いておりますが、なかなか作業して頂く場ができないというのが実態であり、ボランティアによる山林労務は数が少ないのが現状であると理解頂きたいと思います。ただ青年の家で自然学校の受け入れをしており、枝打ちの学習や学習の場としての山林の提供については鋭意行っています。